俺の血を飲みたい幼馴染

 いつからだろう、響谷の事を異性として認識するのとは他に、何か別の『欲』を感じるようになったのは。

 私は彼の事が好きだ。それは前から自覚していた。

 でも、それとは別に、私は響谷に何か別の欲求を抱いている気がする。

 三大欲求のどれにも当てはまらない、4つ目の『欲』。それを、響谷にだけ抱いてしまう。


 ある日の体育の授業。グラウンドで走っていた響谷が躓いて、膝を擦りむいてしまった。

 心配になってすぐに、響谷の元に駆け寄った。

 響谷は大丈夫そうだったけれど、私の視線はなぜか、響谷の擦り傷から滲み出る血液に釘付けになっていた。

『響谷の血が欲しい』

 本能がそう叫んでいる。

 私が響谷に抱く『欲』は、きっとこれだ。気を抜けば、本能のまま響谷の血を舐めてしまうかもしれない。

 響谷に引かれる…ましてや嫌われるかもしれないのに、本能は『響谷の血が欲しい』と叫んでいる。


 結局、その日は我慢をすることができた。






飲みたい。




    響谷の血を。




たくさん。


飲みたい…。飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい響谷の血響谷の血響谷の血響谷の血響谷の血響谷の血響谷の血響谷の血響谷の血響谷の血響谷の血響谷の血響谷の血響谷の血響谷の血響谷の血響谷の血響谷の血響谷の血響谷の血響谷の血響谷の血響谷の血響谷の血響谷の血響谷の血響谷の血響谷の血響谷の血響谷の血響谷の血響谷の血響谷の血響谷の血響谷の血…。



 狂気の様に、私に芽生えた欲は止め処なく溢れ続ける。


 響谷の血が…飲みたい。



 その『欲』を理性で抑えることも、長くは持たなかった。


 響谷が、恋人と別れてから数日、私はもう限界だった。

 普段持ち歩くことのない…というか、持ってすらいなかったナイフを買ってしまった。

 怪我をしてしまっても大丈夫なように、鞄の中には消毒液や絆創膏を入れていた。

 …だから…だからもう…。


 我慢、出来ない。


 会話の内容は覚えていない。

 強いて言うのなら、響谷に『血を飲ませて』と言ったことを、ぼんやりと覚えているくらいだった。


 響谷の指先の皮膚をナイフで斬って、口に咥える。

 滲み出てくる血を、ひたすらに舐めて、舐めて舐めて…。





響谷の血響谷の血響谷の血響谷の血響谷の血響谷の血響谷の血響谷の血響谷の血響谷の血響谷の血響谷の血響谷の血響谷の血響谷の血響谷の血響谷の血響谷の血響谷の血響谷の血響谷の血響谷の血響谷の血響谷の血響谷の血響谷の血響谷の血響谷の血響谷の血響谷の血響谷の血響谷の血響谷の血響谷の血響谷の血…。





   …やっと…飲めた…。





 我を忘れて、ただひたすらに響谷の血を舐めた。

 …響谷は、私を嫌うかな。

 そんな思考が、忘れていた我を引き戻す。


「………、…ありがと、響谷…」

 そう言って、響谷の指を口から出す。

 私の唾液にまみれた響谷の指の傷口から、また血が滲んでくる。

「…えっと、傷口、手当するからちょっと待ってね」

 我慢ができる範囲まで治まった『欲』を抑えながら、響谷の傷口を手当てする。



 響谷が隣で眠っている。深夜だと言うのに、私はまた『欲』に駆られてしまう。

 響谷の上に覆い被さって、首筋を優しく噛む。


 響谷から犬みたいって言われた。

 …間違ってはいないと思う、けれど、なんだかとても不服だった。




 気が付けば、噛む力が強くなって、響谷の皮膚を突き破っていた。

 また、『欲』が荒れ狂い始める。鎮めるには、響谷の血を吸うほかない。


 …ごめんね響谷。私はおかしくなっちゃったみたいなの。


――――――――

作者's つぶやき:…これが狂気っていうやつなんですかね。

いやぁ、怖いですねぇ…。

まあ、本能には逆らえたり逆らえなかったりしますから。響谷くんの血を吸わなくても生きていくことはできるんでしょうが、その場合菜音さんの精神状態は限りなく不安手になると思いますね。

この『欲』に名前を付けるなら…吸血欲ですかね。

――――――――

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