第13話「中学生の二人は」
カランコロン。
いつものドアの音が店内に響く。
「い、いらっしゃいませ!」
「い、いらっしゃいませ……」
美潮ちゃんと翔平くんが、緊張した顔で言った。うん、元気に言えたからいいんじゃないかなと思う私だった……が、お客さんを見てハッとした。
「おやおや、今日はお若い店員さんがいるんだね」
来てくれたのは石丸さんだった。以前父の絵を二つ購入してくれた方だ。私も慌ててご挨拶する。
「いらっしゃいませ。先日はどうもありがとうございました」
「いやいや、こちらこそ。いただいた絵は大事に部屋と職場に飾っているよ。いいもんだね」
「まぁ、そうですか、父も喜ぶと思います。あ、父を呼んできますね。美潮ちゃん、翔平くん、お席に案内して、ご注文を訊いてくれるかな」
私がそう言うと、「はい! こちらにどうぞ」と元気よく言ったのは美潮ちゃんだ。翔平くんは少しおどおどしながらついて行く。私はその間にアトリエにいる父を呼びに行った。
「お父さん、石丸さんがいらっしゃったよ」
父は考え事をしていたみたいだが、私の言葉を聞いて「そうか」と一言だけ言って、カフェの方に行った。
「光さん、ブレンドコーヒーをお願いします、とのことでした」
カフェに戻った私に、美潮ちゃんが話しかけてきた。
「あ、分かりました。二人ともコーヒー淹れてるところ見る? こっちにおいで」
私はそう言って二人をカウンターの奥へと連れていく。
ブレンドコーヒーには異なるコーヒー豆を使う。あらかじめ用意していたコーヒー豆を挽き、ドリッパーにセット。そこにお湯を注いでいく。一度目は豆を蒸らすため、二度目はコーヒーを抽出するために、丁寧に。
「わぁ、こうなっているんですね!」
「……す、すごい」
二人が興味を持ってくれたみたいで、私は嬉しかった。
「うん、いろいろな淹れ方があるんだけどね、うちはこうやってるかな」
「そうなんですね! わぁ、いい香りがします!」
「あはは、コーヒー豆もこだわっているんだよ。じゃあ出来上がったら翔平くんに持っていってもらおうか。『お待たせしました』って言ってね」
「……あ、は、はい」
「あんた、ドジらないようにね。持っていくときにこぼしたりしそう」
「……だ、大丈夫だよ」
「あはは、慌てる必要はないからね、気を付けてね」
翔平くんがゆっくりとコーヒーを持っていく。テーブルの席では父と石丸さんがお話をしているみたいだ。
「……お、お待たせしました、ブレンドコーヒーです」
「ああ、ありがとう。今日は若い子がいるんだね」
「あ、こちらは近くの中学校から職業体験で来ている子です」
父が石丸さんに説明をしていた。
「そうかそうか、それは素晴らしい経験だ。キミ、頑張ってね」
「……あ、は、はい……! ありがとうございます」
翔平くんがペコペコとお辞儀をして、カウンターの方に戻ってきた。
「……き、緊張した……」
「お疲れさま。流れはこんな感じだけど、二人とも分かったかな?」
「はい! 大丈夫です!」
「……あ、僕も、大丈夫です」
「よし、二人とも大丈夫そうだね。あ、またお客さんが来るみたい。お席に案内してあげてね」
* * *
「二人とも、お疲れさまでした。どうだったかな?」
あれからしばらく美潮ちゃんと翔平くんに、お店を手伝ってもらった。二人とも性格は違うが、真面目できちんとやってくれるタイプの子だというのは伝わってきた。
「緊張はしましたが、働いているって感じがして、とてもいい経験でした!」
「……あ、ぼ、僕もです。あと、働くのって大変なんだなって」
「そうだね、二人のお父さんお母さんも、同じような感じだよ」
「うーん、お父さんなんていつも家でゴロゴロしてるんですが……」
「あはは、お父さんも休日は休みたいんだよ。あ、二人ともコーヒーは飲める? もう少し時間あるから、二人の分を淹れてあげるよ」
「え!? い、いいんですか……?」
「うん、今日頑張ってくれたから、ご褒美だよ」
「ありがとうございます! いただきます!」
「……あ、ありがとうございます」
私は二人のコーヒーを淹れることにした。二人には苦みの少ない東南アジア産のコーヒー豆がいいかもしれない。豆を挽き、いつものようにコーヒーを淹れる。
「はい、どうぞ」
「わぁ、いい香りです! いただきます!」
「……ありがとうございます、いただきます」
二人がゆっくりとコーヒーを飲む。口に合うかなと思っていたが、
「……美味しいです! 家のとは違う!」
「……ほんとだ、美味しいです」
と、喜んでくれたみたいだ。私は嬉しくなった。
「あはは、ありがとう。二人とも今度はお客さんとして、うちに来てもらえると嬉しいな」
「はい! またそのときはよろしくお願いします!」
「……よ、よろしくお願いします」
美潮ちゃんと翔平くん、若い二人の元気な姿を見て、私も負けていられないなと思った。
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