第11話「お店のホームページ」
連休中はやはりお客さんがいつもより多かった。
ありがたいことなので、多いことに文句を言ったらばちが当たる。私と父はいつも通り接客を行っていた。
そして、私と父の他に、もう一人。
「光さん、ブレンドコーヒーを二つ、お願いします」
そう、山倉さんがいてくれるのだ。「連休中はすべて入らせてください」と山倉さんが言うので、その通りに毎日バイトに入ってもらっていた。
まだ自信がないのか、少しおどおどしているときもあるが、常連さんからも「あら、可愛い子が入ったのね~」と、あたたかい目で見てもらえている。
それでも、本人は真面目で、私や父が教えると真剣な目で見て覚えようとしている。そのやる気は感じとることができた。
「ブレンドコーヒー二つ、できました」
「はい」
山倉さんがコーヒーを持って、お客さんのところに行く。その後ろ姿を眺めながら、私は山倉さんに入ってもらってよかったなと思った。
今日もお昼が過ぎて、だいぶ落ち着いたころ、
「光さん、あちらのお客さまが、光さんを呼ばれていて」
と、山倉さんに言われた。席を見ると坂元さんが座っている。
「あ、はーい」
私は返事をして、坂元さんの元へ行く。
「あ、光さ~ん、こんにちは」
「こんにちは、私を呼んでいたと聞いたのですが、何かありましたか?」
「そーなんですよ~、あ、バイトの子が入ったんですね~」
「ああ、そうなんです。山倉さんといいます。これからよろしくお願いしますね」
「こちらこそ~、可愛い男の子ですね~。ああ、そうそう、ちょっと光さんに見てもらいたいものがあって」
そう言って坂元さんがパソコンの画面を私に見せてきた。
「ん? これは……? あ、『アトリエ月光』って書いてありますね」
「そーなんです、これはまだデモ画面なので公開はしていないのですが、こんな感じで、お店のホームページを出すのもいいんじゃないかなって」
「お店の、ホームページ……?」
私の頭の上にはてなが浮かんでいたと思う。坂元さんのパソコンに映し出されていたのは、『アトリエ月光』のロゴと、ここの外観の写真だった。そして下に説明文なのか、『アトリエ&カフェ 心あたたまる癒しの空間へようこそ』と書かれてあった。
そういえば坂元さんはWebデザイナーのお仕事をしていると聞いた。こういうページを作るのはプロだ。私はじっと坂元さんのパソコンを眺めた。
「あ、これはまだ作っている途中なんで、そんなにじっくり見ても大したことないですよ~」
「あ、すみません、でも、すごくよくできているなぁと思って」
「ありがとうございます~。まぁこんな感じで、お店の紹介と、その中にお父さんの絵を出せば、宣伝になるんじゃないかなーって思いまして」
「な、なるほど……」
お店のホームページ、実は私も少し考えたことがあった。ただ、私にその技術がなかったため、頭の中の構想の一つにとどまっていたのだ。
「ゆくゆくは、お父さんの絵もWebで買えるようにしたりしても面白いんじゃないかなーと思いまして。こんなにいい絵がたくさんあるんだから、色々な人に見てもらいたいと私も思っていますので~」
坂元さんの言葉に、私も納得した。たしかにWebに公開することによって、父の絵がもっと見られるようになるのは嬉しい。ただ、私はちょっと気になったことがあった。
「あ、あの、いい考えだなとは思うのですが、これってけっこうお金がかかるのでは……?」
「ああ、そっちの心配ですか、ホームページを構えるサーバー代だけでいいですよ~、私の技術料はいらないです~」
「え!? い、いや、それはよくないんじゃないかと……」
「いえいえ、いいんですよ~、私も仕事で
「で、でも、少しは報酬を受け取ってもらわないと……」
「ああ、じゃあこうしましょう。宣伝効果でお父さんの絵がもっと売れたら、少しだけ私がいただくということで。いつもここを仕事場として使わせてもらっているから、そのお礼も兼ねていますので~」
そ、それでいいのかなと心配になったが、坂元さんが引く気がなさそうだったので、
「……ありがとうございます。ホームページの件、おまかせしてもよろしいですか? 私もできることはしますので」
と、言った。
「はい、任せてもらって大丈夫です~。サーバーの件とか細かいことはまた資料をまとめておきますね~」
「はい、ありがとうございます」
「いえいえ~、あ、ブレンドコーヒー、もう一杯もらってもいいですか?」
「あ、はい、少々お待ちくださいね」
私は坂元さんのコーヒーを淹れるためにカウンターの奥へ行く。
なるほど、お店のホームページか……坂元さんが言う通り、いい宣伝になればいいなと思っていた。
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