第8話「のんびりとした休日」
暖かい日差しが車内に入り込んでくる。
今日はカフェは定休日なので、私は車を使ってスーパーへ買い物に行くことにした。私の車はスズキのラパン。淡いピンクのボディがお気に入りだ。
車内で流れるBGMは、私の好みに合わせて懐かしい曲から流行りの曲まで。ふんふんと鼻歌を歌ってしまうあたり、私も単純な女だなと思う。
しばらく車を走らせて、スーパーへやって来た。ここはこのあたりでもけっこう大きなところで、駐車場も広い。私は車を停めて、エコバッグと普通のバッグを持ってスーパーの中に入った。
さらりとした涼しさが店内にはある。ここのところ外は暖かくなってきたため、店内の涼しさが心地よかった。
メモを片手に野菜コーナーをあれこれ見ていると、
「――あら? 光ちゃん?」
と、声をかけられた。見ると田所さんがいた。
「あ、こんにちは」
「こんにちは。そういえば今日はカフェはお休みだったわね。お買い物?」
「はい、食料品の買い出しに来ました」
「そうなのね。ああ、光ちゃん、たまねぎは買わなくていいわよ。うちで穫れたのがあるから、今日の夕方持って行ってあげるわぁ」
「え!? い、いえいえ、そんな、いつももらってばかりで」
「いいのよいいのよ、うちも収穫しすぎるときがあるからね、食べてくれると嬉しいわ」
そう言って田所さんが私のかごからたまねぎを戻した。なんか申し訳ない気持ちになるが、「ありがとうございます」と、私は言った。
田所さんと別れて、店内を巡る。お肉は豚肉と鶏肉を買いたいな……あ、牛乳も忘れないようにしないと。かごはあっという間にいっぱいになった。
お会計をして、エコバッグに詰めて、車に戻る。ふーっと息を吐いてまた車を走らせる。途中で道路工事をやっていた。ご苦労様です。
家に戻り、買ってきたものを冷蔵庫や棚に入れる。今日は冷しゃぶにしようかなと思っていた私だった。
買い物も終わり、さてこれから何をしようかと考える。アトリエで何か描くのもいいかもなと思ったが、そういえば……と、私はスケッチブックと鉛筆を手にとってバッグに入れた。
「ちょっと、公園まで出かけてくるね」
リビングにいた父にそう伝えると、父は「ああ、分かった」と、短く返事をした。
私はまた車に乗り込む。この前外でスケッチをするのもありなのではと思っていたのを思い出したのだ。
車内ではまた私のお気に入りの一曲が流れている。このアーティストもデビューしてから長く活躍しているよな……と思いながら、車を走らせること十分くらい。私はちょっと広めの公園へやって来た。ここは遊歩道とベンチがあって、散歩をしている人や、ちょっと休憩している人など、様々な人が利用していた。
私は日陰になっているベンチに腰を下ろした。空気が澄んでいて気持ちいい。今は外で何かをするのにちょうどいい季節だと思う。これが夏だととんでもない暑さになるので、外での活動は難しい。
ぼーっと道行く人を眺めた後、私はスケッチブックを取り出した。この公園を描いてみようと思ったのだ。木があって、ちょっと向こうには遊具もあって、ベンチもあって、のんびりとした空間で、私は鉛筆を走らせる。あくまで下描きのような感じで、見えたものをそのままストレートに描く。
その後、私はスマホを取り出して、今見えている風景をパシャリと撮った。帰って色をつけるときに参考にしようと思ったのだ。
「よし、これで大丈夫……と」
私はまたスケッチブックを手にとり、鉛筆を走らせる。その時、私の方へトコトコと歩いて来る女の子がいた。あれ? と思っていると、
「おねえちゃん、こんにちは!」
と、挨拶をされた。なんと声をかけてきたのはこの前お店に来てくれた心愛ちゃんだった。
「ああ、こんにちは。あれ? 心愛ちゃん、一人?」
「ううん、ママといっしょにきたよ!」
なるほど、お母さんと……と思っていると、向こうから走って来るお母さんがいた。
「こ、心愛、一人で行ったらダメって言ったでしょう……あ、あなたはアトリエの……!」
「こんにちは。心愛ちゃんがいたのでびっくりしました」
「こんにちは、すみません、すぐ走って行っちゃうので……あれ? 今日はお休みなのですか?」
「はい、カフェはお休みなので、のんびりと絵を描いていました」
「おねえちゃん、えをかいているの? みせて!」
心愛ちゃんがそう言ったので、私はスケッチブックを見せた。
「わぁ、こうえんだ! すごい!」
「ほんとだ、すごいですね……さすがプロって感じです」
「いえいえ、私もまだまだ練習が足りないんですけどね。こうしてのんびり描く時間も大事にしていて」
「そうでしたか、またカフェに行かせてもらってもいいですか?」
「はい、いつでもお待ちしております」
心愛ちゃんがベンチに座って、あれこれ楽しい話をしてくれた。
のんびりとした休日も、私にとっては大事なものだ。
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