午後10時15分、僕は彼女のぬいぐるみになる

夜狩仁志

第1話 本当はね……

 最近、体の調子が良くない。

 今夜も、ベッドの上に仰向けになって倒れる僕。

 高校に進学して慣れない環境のせいかな?

 決まって夜の10時過ぎに、金縛りみたいに体が動かなくなるのだ。

 そして今夜も……


 ……


 …………


 …………ぅっ


 どうやら今日も気を失っていたみたいだ。


 また体が動かない。

 目だけをなんとか動かして周囲を見渡す。


 しかし、今回はいつもと情況が違う。

 目の前の景色が僕の部屋ではない!?


 女の子の部屋のような?


 どことなく見たことのあるような、懐かしい部屋。


 これは……そうだ!


 結衣ゆいちゃんの部屋だ!


 幼馴染みの女の子で、今回めでたく一緒の高校に合格して、同じクラスになった、あの結衣ちゃんの部屋に間違いない。


 昔はよく遊びに行ったから覚えている。


 でも、なんで?

 僕がここに??


 ふと、視線を正面の化粧台に向けると、鏡に写った自分の姿が……


 えっ!?

 クマのぬいぐるみー!?

 僕はいつの間にか、結衣ちゃんのクマのぬいぐるみになっていた!?


 そのお腹の部分に写真が貼られている?

 僕の顔写真だ。

 一緒に貼り付けられているポリ袋には、髪の毛数本?

 もしかして、それも僕の?


 戸惑う僕の視界を遮るように、

 突然、

 女の子の顔がアップで迫って来た!?


 この子は……

 ピンクの寝巻き姿の、結衣ちゃん。

 お風呂上がりなのか、ちょっと火照った肌。

 いつもは後ろで結んだ艶やかな髪も、ほどけて肩まで垂れている。


「ん~ どうかな? 成功したかな?

 おまじない。

 写真も貼ったし、伊織いおり君の髪の毛も取ってきたし……


 こうすれば、私の想いが伝わる……


 って書いてあったんだけど……


 本当かなぁ~」


 おまじない……ですと?

 そのせいで僕の精神が、このぬいぐるみに??


「ん~~ 

 まぁ、いっか。


 え~と、君は今日から……

 そうだね……


 伊織君の分身ってことで、

 “いおりん”

 って、呼ぶね。


 ねぇ、聞いてくれる?


 伊織君とせっかく一緒の高校に入れたのに、全然話す機会がないんだ。

 なんか……

 みんなの前で話すのが、

 ちょっと、

 恥ずかしいんだよね。


 いつも素っ気ない態度で接しちゃうんだけど、

 本当は恥ずかしいだけで、

 昔みたいに仲良くしたいんだ。


 本当はいっぱいね、

 色んなこと話したいんだ。

 でもね、なかなか話しかけられなくて……


 昔みたいに一緒に遊んだり、

 お喋りしたり、

 ごはん食べたり……


 なんでだろう?

 昔はあんなに普通にいられたんだけど……

 なぜか胸が苦しくなるってゆうか……

 言葉に詰まるっていうのか……


 だからね、

 こうやって“いおりん”と話す練習したいなーって思ったの。


 どうかな?

 これからも、私の話し相手に……


 相談相手になってくれるかな?

 私にちょっとだけ、勇気をくれるかな?


 ……


 …………


 ありがとう!


 これからも、よろしくね!

 いおりん!


 おやすみなさいっ!!」


 ぎゅ~~~


 結衣ちゃんから胸いっぱいの、

 おやすみのハグをされると、

 心地よいぬくもりと共に、

 僕の意識は自分の体へと戻ってきたのだった。



 ……

 結衣ちゃんが、そんなことを思ってたなんて……


 でもね、このおまじない、

 たぶん使い方間違ってるから、

 ひかえてもらいたいんだよね……。

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