第13話 背中からね……

「ねぇねぇ!

 いおりん!

 聞いてくれる!


 あのね!

 今日ね!


 伊織君にね!

 その……


 あのね……


 後からね……


 抱き締められちゃったの!!



 偶然、

 たまたまだったんだけどね、


 一緒に帰ってる時なんだけど、

 暑くて、顔中、汗がすごくて

 ハンカチで顔を拭いてたんだけど、

 そのハンカチ、落としちゃって……


 それが風に乗って、前の方に飛んで落ちちゃったんだよね。


 で、慌てて取ろうと前に出て、

 しゃがんだら……

 後からきた伊織君がぶつかっちゃって、

 そのまま、覆い被さる感じで……


 ……


 ……ガバ~って、


 伊織君が私のこと、


 ……


 ……キャッ!


 私が急に前に出ちゃったのが悪いんだけど、


 伊織君が転びそうになって、


 そのまま私に抱きつく感じで!


 ……


 …………


 一瞬だよ!


 ホント一瞬!


 すぐ離れたし!


 私も驚いちゃって!

 そのまま突き飛ばしちゃったもん!


 びっくりしちゃって……


 だって、

 後からぎゅーって!

 背中に伊織君の体が!


 私ね、恥ずかしくて、

 怒鳴っちゃって……


 わざとじゃないとはいえ、

 抱きつかれちゃったんだよ!?


 それに……

 すごく暑かったから、


 ……


 ……その、


 汗臭いかもしれなくて、


 ……で、


 思わず、


『なにすんのよ! この変態!!』


 って怒鳴って

 突き飛ばしちゃって!

 そのまま私一人、

 走って帰ってきちゃって……


 ちゃんと後から、伊織君がメールで、

 ごめんねって、謝ってくれたんだけど……


 ……


 ……その、


 全然、伊織君が謝る必要ないのに……


 むしろ嬉しかったというのか……


 その……


 うぅ……


 思い出しただけでも、

 すごくドキドキしてる!


 ね、すごいでしょ?

 いおりん?


 ぎゅ~~~


 ね?

 心臓がドキドキしてるでしょ?


 はぁ……


 でも……


 また、ぎゅ~って

 してくれないかな……?


 でも、そんなこと言えないし!!


 また、なにか転びそうになった時とか……


 私が転びそうになったら、

 後から支えてくれるかな?


 ぎゅ~~~


 はぁ……


 ぎゅ~~~


 伊織君……」



 ぎゅ~~~っ!!



(……


(えっと……


 そのぉ……


 転びそうになったら助けてあげるけど……


 その……なんというか……


 ……


 全然、汗臭くなかったし……


 むしろ、


 いい匂いが……


 ……しました)

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