第5話 正体不明の有名人②
皆様、ごきげんよう。
前回、正体不明の有名人として、『神武天皇』と『二宮尊徳』を取り上げた。
今回はその続きとして、さらにビッグネームを取り上げたい。
正解者は……おりませんでしたが、貴重な意見をいただき、ありがとうございました。
やはり、お札になる方は気になりますよね。
ということで、最後を飾る有名人を発表したい。
その人物の名は……『金太郎』だ。
いや、童話とか童謡の人物じゃん。
散々もったいぶっておいて、まさかの『金太郎』とは……ガッカリだよ!
と、思われるかもしれない。
だが、彼は実在していたかもしれない、あるいはモデルとなる武将が存在したかもしれないと言われているのだ。
ということで、私へ向けられた冷ややかな視線に耐えつつ、紹介していこうと思う。
まず、『金太郎』とはどんな人物を思い浮かべるだろうか。
子供向けの童話にある挿絵だと、こんな風に書かれているはずだ。
・おかっぱでぽっちゃり体型の男の子
・ケツ丸出し
・斧を持っている
・クマと相撲をしている
ちなみに、『金太郎』の武器は『斧』ではなく『鉞(まさかり)』だ。
鉞は確かに斧に似ているが、力学でいうところの支点と作用点の位置が異なっており、用途が違うものだ。
武器として出てくる鉞で有名なものは、『機動戦士ガンダム』の『ザク』が持っている『ヒートホーク』だ。
あのように刃の部分が長く伸びているのが特徴だ。
これも、おっさんホイホイなのが申し訳ないのだが、他に鉞を武器にしている例を見たことがないので仕方がない。
もし、鎧兜に身を包んだ武将が『ヒートホークみたいなもの』で戦っている姿が想像できるだろうか。
それほどマニアックな武器をチョイスしているということになる。
蛇足となるが、さきほど、支点と作用点の位置が斧と異なると書いたとおり、鉞で薪を割ると刃の部分がすっぽ抜ける可能性があり、大変危険なので気をつけてもらいたい。
キャンプ場で使用する薪割り道具はナタを選ぶと良いだろう。
さて、こんな特徴の『金太郎』だが、これは幼少期のエピソードの一部に過ぎず、彼の本当の凄さには一切触れられていない。
ということで、実際の特徴を以下に挙げる。
・本名は『坂田金時(さかた きんとき)』もしくは『坂田公時』
・幼少期は母と暮らしており、母親思いの優しい子
・怪力の持ち主
・平安時代中期の武将、源頼光に見出され、頼光四天王の次席となる
・頼光と共に、酒呑童子(しゅてんどうじ)という鬼を討伐した
・『金時豆(きんときまめ)』の名前の由来
・息子『坂田金平(さかた きんぴら)』は『きんぴらごぼう』の名前の由来
いかがだろうか。
なかなか濃い特徴なだけに、広く浸透していないのが残念だ。
以前、auのCMで桃太郎、浦島太郎とともに出演していたが、桃太郎は鬼退治の話が度々出ていたのに、金太郎の鬼退治は無かったことにされているのだ。
桃太郎が倒した鬼は無名だし、犬、猿、雉にやられるほど微妙なのに対し、金太郎が討伐した鬼は、京都を恐怖に陥れた鬼界隈最大級のビッグネームだったにも関わらずだ。
大体、子供、犬、猿、雉にやられるって、鬼としてはどうなんだろうか。
ドーベルマン、ゴリラ、鷲というラインナップであれば納得できるのだが、溢れる数合わせ感がなんとも残念と言わざるをえない。
余談だが、鬼は『鬼門』の方角(北東)から来るとされていて、干支で言えば牛と寅にあたる。
そのため、牛の角を生やし、虎柄のパンツを履いている。
そして、裏鬼門にあたる南西の干支、犬、猿、酉を代表して、犬、猿、雉をお供にしたという説が有力だ。
一方で酒呑童子といえば、茨木童子、四天王として星熊童子、熊童子、虎熊童子、金童子など多くの鬼を配下とする大ボスであり、京都で貴族の娘を誘拐するなどの悪行三昧を働いていた。
よって、酒呑童子を討伐したとすれば、明らかに桃太郎よりも格が上だと言える。
恐らく、auのCMを制作した者は金太郎のことをよく知らないまま、あのCMを作ってしまったのではないだろうか。
調べもせずにあのようなCMを作るなど、クリエイターとしてあるまじき失態だと思うのだが、実は金太郎側にもアピール不足な点があることも否めない。
まず、金太郎の仲間がヤバすぎる。
主君の源頼光という武将は京都付近の鬼を退治していたことで知られており、特に四天王首席の『渡辺綱(わたなべのつな)』は無双の強さだったと言われている。
そして、この2人は実在が疑わしい坂田金時と違い、実在が確実視されているのだ。
特に渡辺綱は酒呑童子だけでなく、茨木童子や牛鬼といった鬼を単独で討伐しており、鬼討伐の実績では比較にならない。
ちなみに、渡辺家は綱にあやかって漢字一字の名前(例:渡辺謙さん、渡辺徹さん)をつける傾向があり、鬼界隈では『渡辺』の名前を聞いただけで震え上がるほどのトラウマを植え付けられたため、節分の豆まきも不要とされている。
ここまで鬼に恐れられていた男が四天王首席で、坂田金時は次席なのだ。
『2位じゃダメなんでしょうか?』と言った人がいたが、2位じゃダメなのだ。
そして、武器にも注目したい。
先ほど、坂田金時の武器は鉞だと書いたが、源頼光、渡辺綱は太刀を使っている。
源頼光が酒呑童子の首を切ったとされている太刀は『童子切安綱』という国宝で、天下五剣に選ばれた名刀なのだ。
渡辺綱の太刀も鬼切という名刀で北野天満宮に所蔵されている。
一方で、坂田金時の鉞は特に銘もなく、ただの大工道具でしかない。
源頼光も、せめて無銘でもいいから、太刀を持たせてあげたら良かったのではなかろうか。
つまり、坂田金時とは、幼少期の頃に『天才級』としてもてはやされたが、成人してからは組織に埋もれてしまった残念な人物を象徴していると言っても過言ではないだろう。
皆様の周りにも、『自称:幼少期は天才だった』人がいるのではないだろうか。
そういった人を見かけたら、坂田金時のことを思い出してあげてほしい。
坂田金時とは、そんな彼らの拠り所となるべき存在なのだ。
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