第12話 ぼくのかんがえた、ゾンビせいあつけいかく

 皆様、ごきげんよう。


 前回はゾンビの起源について解説した。

 科学的には怪しいところが盛り沢山のようだが、実際に彼らはこの世に存在していたのだ。

 だが、実在するゾンビたちは人間を襲うことは無いようだし、万が一噛まれたとしてもゾンビが感染する訳では無いので、ひとまず安心してほしい。


 ゾンビ映画の起源を調べてみると、1932年に公開された『White Zombie(恐怖城)』という作品が最初とのことだ。

 この作品におけるゾンビは仮死状態から生まれた人間であり、虚ろな目をしてノソノソと覇気のない動きをする。

 自我もなく、ゾンビマスターに操られる存在とのことだ。

 『ブードゥー教』のゾンビと特徴が酷似している。


 人間を襲うゾンビが登場したのは、1968年公開の『Night of the Living Dead(ナイト・オブ・ザ・リビングデッド)』と思われる。

 この作品でのゾンビはタイトル通り『生ける屍』であり、絶望の中で取り囲まれたゾンビと戦うストーリーのようだ。

 ゲーム等でよく見かけるゾンビはこの映画から生まれたのだろう。


 唐突だが、ゾンビ映画やゲームを見ていて気になることがある。

 それは大体、政府が機能しておらず、警察や軍隊が登場しないことだ。

 こんな凶悪な存在が出現していたら、国家を揺るがす一大事だと思うのだが、政府の連中は一体何をしているのだろうか。

 もしかしたら、軍隊もゾンビに全滅させられている可能性も考えられるが、だとすればそれは最悪の事態だ。

 軍隊が太刀打ちできない相手に、素人が立ち向かって勝てるわけないじゃないか。


 だが、銃弾が通用する相手であれば、装甲車両で轢いてしまえばよいのだ。

 住民を避難させて爆弾を落とすのもアリだ。

 このように、いくらでも対象方法はありそうだが、彼らの体たらくには呆れるばかりだ。


 もちろん、未知の存在に対し、初動が失敗するということも考えられる。

 普通に考えて、ゾンビの襲撃に備えるようなマニュアルなんて、軍にあるとは思えない。


 と、思っていた時期が私にもあった。


 そう、存在するのだ。

 ゾンビに対抗するマニュアルを作るような狂気に満ちた国と言えば……。

 もちろん、アメリカ合衆国だ。

 いやあ、すごいね。


 ――


 『CONOP 8888(非常事態計画8888)』は、2011年4月30日に公開された文書で、WEB上で誰でも読むことができる。

 これさえあれば、軍隊がすみやかに制圧してくれること間違いなしだ。

 ホラー映画が苦手な諸君も、もう怯えることはない。

 ということで、今回は『CONOP 8888』を解説する。


 まず、ゾンビとは何かを定義しなければならない。

 この文書では、ゾンビを以下の8つに分類している。

 ・病原体 … ウィルスや細菌によって作られる

 ・放射能 … 電磁波や放射性物質を使用して作られる

 ・黒魔術 … オカルト的手法で作られる

 ・宇宙由来 … 宇宙からやってきた

 ・兵器利用 … バイオエンジニアリングで作られる

 ・寄生生命体 … 生命体を宿主にして体を転々と変える

 ・ベジタリアン … 植物しか襲わない

 ・ニワトリ … 安楽死させたニワトリが蘇る


 といった具合だ。

 ゲームでよく見かけるのは『病原体ゾンビ』であろう。

 噛まれたら感染してしまうタイプだ。


 『放射能ゾンビ』もゲームで見かけることがある。

 緑色に発光しているゾンビがいたら、恐らくこれだ。

 色から推測すると、放射性ウランが体に埋め込まれているのではないだろうか。


 宇宙由来というのはあまり見かけないが、昔読んだ『バビル2世』の中で『宇宙ビールス』という似たようなものがあった。

 ウィルスだが、知的生命体でもあり、適合者を恐ろしい超能力者に変える力がある。

 作中ではニンニクが弱点となっていて、吸血鬼を連想させるあたりに横山光輝先生のセンスが光る。


 『ニワトリゾンビ』は、実際に一酸化炭素で安楽死させたニワトリが、死にきれずに土壌から抜け出てくることがまれにあるらしく、これを元ネタにしたらしい。

 『黒魔術ゾンビ』に関しては、『戦えるのが従軍牧師だけと想定した場合、無神論者は戦力外になる』と記述があり、なかなか凝った設定が行われてる。



 敵となるゾンビを定義したら、いよいよ対策計画の出番だ。

 ここで難しいのが、市民を守りながら戦う必要があるということだ。

 ゲームのように、ゾンビの大群にロケットランチャーをぶっ放せば解決するような単純なことではない。

 市民と信頼関係を構築し、他国との外交も重視しながら、攻撃・防衛を考えなければならない。

 これをフェーズ0からフェーズ6までの段階に分け、それぞれで事態の予測から対処、収束に至るまで、各部署が取るべきアクションを明確にまとめている。

 しかも、やるべきことだけでなく、やってはいけないことも詳細に書かれている。

 緊急事態時は特にこの『やってはいけないこと』が重要で、せっかくの努力が一瞬で無駄になることさえあるからだ。


 <フェーズ0:初期段階>

 ゾンビ病原体が確認され、管理されている状態。

 国民、他国のほとんどがゾンビの存在を知らないが、アメリカ戦略軍内の大量破壊兵器センターが連邦政府、地方機関と連携して、主導権を握る。


 <フェーズ1:構想>

 大量破壊兵器を持っている特定の国やテロリストに対する警戒を高める。

 この機に乗じて戦闘をしかけてくるかもしれないし、そもそも黒幕かもしれないからだ。


 <フェーズ2:予防>

 アメリカ戦略軍の拠点を要塞化し、全職員を出動体制に移行する。

 国民への混乱を防ぐために情報操作を行う。


 <フェーズ3:主導権奪取>

 戦闘を開始する。

 戦闘期間は40日と設定しているが、これは40日経てばゾンビが活動できなくなるとの推測に基づいている。


 <フェーズ4:制圧>

 40日が経過し、残存ゾンビやインフラの状態を確認する。

 収集した情報を拡散し、孤立した生存者との接触を図る。


 <フェーズ5:安定化>

 生存者の救出、汚染源への対処を継続する。


 <フェーズ6:文民への権限委譲>

 ゾンビとの戦闘、復旧作業の権限を民間に委譲する。



 いかがだろうか。

 こういった計画書を税金で作成するのだから、さすがアメリカと言わざるを得ない。


 この作戦書が作成された経緯だが、軍事計画や作戦を立案する士官候補生の軍事教育用教材、テンプレートとして作成されたとされている。

 この教材により軍事計画、治安維持の基本的な概念が学べるようになっているという訳だ。

 ゾンビという、敵国の軍隊やテロリストとは異なる、理不尽極まりない存在を対象とすることで、想定外の事態が起きても対応できる能力を育てようということだろう。


 もはや、ゾンビはアメリカの伝統文化と言っても過言ではなさそうだ。

 これからも、良質なゾンビコンテンツの供給に期待したい。

 あ、もちろん、コーラとジャンクフードの供給も忘れずに頼む。

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