エッセイ日和~狂気の世界からこんにちは~
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第1話 フラグを立ててみた話
皆様、ごきげんよう。
この『エッセイ日和』では、私が疑問に思ったことなどを掘り下げて面白おかしく書いていく試みとしたい。
さて、記念すべき初回の話題は『死亡フラグ』にしようと思う。
『俺、この戦いが終わったら彼女と結婚するんだ』みたいなことを言うと、直後に死ぬというアレのことだ。
結婚による幸せを+100、死亡による不幸を-100とすると、ただの死亡なら-100なのに、たったあれだけの魔法の言葉を唱えるだけで、その差は-200となるため、より大きな感情を読者に与えることができるのだ!
まさに、感情の錬金術と言っても過言ではない奇跡のテクニックと言えよう。
しかし、便利な手法ゆえに乱立してしまっており、我々作家は『あ~、これ死亡フラグなんじゃね?』というメタ読みをされた挙げ句、安易な手法に手を出した作家としての烙印を押されかねない危険性と常に戦わなくてはならないのだ。
この恐ろしい手法を我々が認識したのは、1986年に公開されたオリバー・ストーン監督のベトナム戦争を題材にした戦争映画『プラトーン』が最初と言われている。
「俺、この戦争が終わったら、この娘と結婚するんだ……」
そう言って、彼女の写真を見せた男はその10分後に死亡する。
死亡フラグのみに着目してみると、死亡フラグの教科書とも言える、見事なフラグの立て方といえるのではないか。
この世に残された彼女のことなんてどうでもいいから、とにかく感動してくれ!という制作者側の無責任さを骨の髄まで味わうことができるのだ。
さて、この『フラグを立てる』というのは、プログラミング用語なのだ。
特にアドベンチャーゲームなどでは、特定の選択肢を選ぶことでフラグが立ち、それによってゲームが進行するようになっている。
そういったゲーム内部の構造と酷似しており、あたかもフラグを立てたかのように死ぬために、このような呼び方となったらしい。
そういえば、昔通っていた床屋の担当のお兄さんがゲーム好き、ガンダム好きで毎回マニアックな話題で盛り上がっていたのだが、ある日『かまいたちの夜』というサスペンスなゲームを勧められたことがあった。
面白そうに思えたので、早速買ってプレイしてみたのだが、30分もしたら犯人とトリックが分かってしまった。
だがしかし、アドベンチャーゲームはフラグを立ててナンボなのだ。
犯人とトリックが分かっているのに、選択肢が間違っているのか、なかなかフラグが立たなくてどんどん人が死んでいく。
山と積み上がったであろう死体を乗り越え、ようやく1日かけてクリアまで漕ぎ着けたのだ。
なんという理不尽!
ということを、当時働いていたバイト先で仲の良かったTさんに話したところ、かなり興味を持ったらしく、自分もやってみたいから貸して欲しいというのだ。
断る理由もないので快く貸したまでは良かったのだが、翌日事件が起こった。
そのTさんが出勤してこないのだ。
無断欠勤は2週間にも及び、連絡も取れなくなった。
何か事件に巻き込まれたのではないかと、バイト先はパニックとなり、『誰か心当たりはないか?』と上司が全員に聞いて回っていた。
私がふと、『そういえば、2週間前にゲームを貸したんですよ。さすがに関係ないと思いますけど』と言ったところ。
「それだ!」
と全員が叫んで、私の方を見た。
いや、ちょっと待ってよ。
いくらなんでも、そんなことあります?
あの人、妻子持ちじゃないですか。
「いや、あいつはそういうやつなんだよ! お前、なんてことしてくれたんだ!」
え~。
っていうか、いくらなんでも2週間あればクリアするでしょ。
全選択肢を選んでフラグ立てまくればいいんだから。
こんな腑に落ちない思いをした翌日、ついにTさんが出勤してきた。
何事もなかったかのように、涼しい顔で仕事をしている……。
だが、たまたま2人になったとき、Tさんが俺に言った。
「あのさ……かまいたちの犯人って誰なの? ヒントでいいから教えて!」
話を聞いて分かったのだが、Tさんが出勤してきたのは改心したからではなく、私にヒントを聞くためだったのだ。
死亡フラグ以外にも、いろんなフラグがある。
どうやら、私はTさんの『なんらかのフラグ』を立ててしまったらしい。
この事件後、Tさんは『なんかヤベえ人』扱いされることとなる。
そう、このフラグによって、Tさんの職場内でのポジションは分岐したのだ。
先ほども書いたように、Tさんは妻子持ちなんですよ。
奥様とお子さんに申し訳ない気持ちで一杯だ。
まあ、私は悪くないと思うけど。
翌日、Tさんへのゲーム貸出が禁止されたのは言うまでもない。
そんな禁止令、学校でもなかなか出ないでしょ。
皆様、くれぐれもリアルに存在するフラグを安易に立てないよう、気をつけよう。
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