第15話 さあ!『コーラ戦争』を語ろうじゃないか②

 皆様、ごきげんよう。

 前回に引き続き、コーラ戦争を語っていこうと思う。


 <前回のあらすじ>


 1800年代の終わりごろ、アメリカで薬剤師を営む2人が作り出した、コカ・コーラ(以下、コーク)とペプシコーラ(以下、ペプシ)。

 序盤はコカインを含むコークが優勢で戦いは幕を開ける。

 その後、禁酒法やコカイン禁止の流れでコークに逆風となるが、ペプシも経営危機を迎える。

 そして世界恐慌が起こり、ペプシはやぶれかぶれの激安戦法をとるのであった。



 <第二次・コーラ戦争:第二次世界大戦>


 世界恐慌によって、庶民はより安いものを求めるようになってくる。

 そうなると、高いコークより安くて量の多いペプシが労働者の間で流行するのは当然だ。

 急激にシェアを拡大するペプシに対し、コークは反撃の機会を見いだせないでいた。

 そんな折、第二次世界大戦が始まった。


 ここでコークは起死回生の一手を思いつく。

 覚えているだろうか、第一次世界大戦で砂糖の価格が乱高下したことを。

 実は戦時下では砂糖が貴重品なのだ。

 砂糖からアルコールを作ることで、航空機の燃料を作ることもできるためだ。

 このため、砂糖は軍需品として国が規制をかけられてしまった。


 本来、大ピンチなこの局面でコークが打った手は『コークを軍需品』にすることだったのだ。

 えっ? と思う方も多いと思う。

 ジュースが軍需品なんて、ちょっと想像ができないよね。


 でも、ちょっと考えてみて欲しい。

 ホコリまみれの戦場で、喉はカラカラ……そして、故郷が恋しくなってくる。

 こんな状態で、目の前に古き良きアメリカの象徴であるコークが差し出されたとしたら、どうだろうか。

 きっと、その安らぎは五臓六腑に染み渡ることだろう。


 こうして、コークは軍需品となる。

 軍需品となったことにより、砂糖を安定して使うことができるという訳だ。


 コークの攻めはまだまだ続く。

 今度は世界中に工場を作り、どこで戦っている兵士にもコークを届けようとしたのだ。

 この作戦により、コークは世界進出(もちろん日本は除外)を果たすこととなる。

 余談だが、ドイツは敵国となり、原液を届けることができなくなったため、その代替として『ファンタ』が生まれたのだ。

 ファンタも美味しいよね。

 ヒトラーがいなければ、ファンタも生まれなかったのだけど。


 さて、困ったのはペプシだ。

 第一次世界大戦に引き続き、またもや砂糖が入手できなくなったのだ。

 そこで思いついたのが『砂糖がないなら、シロップを入手すればいいじゃない』であった。

 砂糖の原産地である南米(主にメキシコ)でシロップまで加工したものを輸入すれば、砂糖規制に引っかからないことに気付いたのだ。


 だが、南米産のシロップは品質が悪かった。

 そのため、評判が落ちていったようだ。

 とはいえ、コークは兵士しか飲めないので、庶民はペプシを飲んでいた。

 こうして、コークとペプシはターゲット層の棲み分けができてしまったのだ。



 <第三次・コーラ戦争:冷戦>


 戦争は終わった。

 この頃の情勢は、コークが優勢であった。

 帰還した兵士たちにとって、コークは共に戦った戦友だったのだ。

 しかも、戦争を通して世界中に工場を持っている。

 世界的に見れば、ペプシはアメリカローカルでしかなかった。


 危機感を持ったペプシはソ連に進出するという、冷戦期にあるまじき手を考え出してしまった。

 だが、ソ連は通貨であるルーブルの持ち出しを禁止していた。

 これでは利益が出たところで、意味がない。

 ということで、まさかの『物々交換』をすることにしたのだ。


 ソ連側からは『ウォッカを販売する権利』が提供され、ペプシはウォッカで儲けることができた。

 しかし、それでもペプシの利益の方が圧倒的に多かった。

 この差分を埋めるため、ソ連から提供されたのが潜水艦や軍艦などであった。

 今なら、とても考えられないことだが、ペプシは世界6位の軍事力を持ってしまったのだ!

 さすがにアメリカ政府から怒られ、解体して売却することになったのだが、コーラの持つ狂気が垣間見える瞬間だったと言うわけだ。


 コークとペプシの全面戦争はさらにヒートアップする。

 ペプシはコークにスパイを送り込み、コーク社員を籠絡しようとしたのだ。

 だが、コーク社員は上層部にこれを報告すると、上層部は『そのお金をもらった上で、偽情報を流せ』とその社員に命じた。

 策士、策に溺れるというやつだろう、ペプシは偽情報で大損することとなる。


 さらに、ペプシはコーラ普及率の低いブラジルに目をつけた。

 ここに工場を作れば儲かるに違いないと思った矢先、コークがブラジル中のスーパーマケットと独占契約を結んでしまった。

 ペプシ側の情報はコークに筒抜け(盗聴されていた)だったのだ。

 せっかく工場を作ったところで販売できず……ペプシはさらに大損をしてしまった。



 <第四次・コーラ戦争:現代(広告戦争)>


 それでも諦めないペプシ。

 奴は何度でも蘇るのだ。


 今度は街角でコークとペプシ、どちらかを分からないようにして、飲み比べをしてもらうことにした。

 これを『ペプシチャンレンジ』という。

 その結果、なんとペプシの方が美味しいと言った人の方が多かったのだ。

 ペプシは『ペプシチャンレンジ』をカメラに収め、CMとして放送することで爆発的なヒットに繋がった。


 これに焦ったのはコーク。

 『そんなはずはない、あれはインチキに違いない』と、自社で同様の飲み比べをやったところ、ペプシを選んだ社員の方が多かったのだ。

 コークは味で勝っていたのではなく、ブランド力で勝っていたという事実を知ることとなった。


 ならば! とコークは味をペプシに寄せた新商品(ニューコーク)へ切り替えることにした。

 これを『カンザス計画』という。

 だが、この計画は大失敗となる。

 『前の方が良かった』とクレームが相次いだためだ。

 味を変えたら常連客が離れていったというやつだね。


 ということで、早々にオリジナルの味に戻すこととなった。

 余談だが、このときにオリジナルの味を『コカ・コーラ・クラシック』と呼ぶことにしたそう。

 缶やボトルに『classic』と書いてあるのを見かけることがあるかもしれないが、これは『オリジナルの味』を意味しているのだ。


 この騒動でコークはシェアをペプシに奪われてしまった。

 そこでコークが打った手は『学校にコークの自販機を置く』だった。

 その見返りに古くなった校舎や体育館を補修したりしたようだ。


 一方、ペプシは公共施設に自販機を設置した。

 売上の一部をその自治体に寄付するという条件で、独占契約を結んだのだ。


 そして、舞台はテレビCMに移る。

 お互いに有名人を起用し、お互いを比較する広告を出し続けた。

 日本では、MCハマー(当時有名だったダンサー)のCMが物議を呼んだので記憶にある人もいるかもしれない。


 ハマーはペプシしか飲まない。

 そのハマーがライブ中に舞台裏でうっかりコークを飲んでしまうと、急にテンションが下がってしまい、バラードを歌い出す。

 それを見た観客がペプシを差し出し、ハマーが飲むと、テンションが戻って踊りだす。

 というものだ。

 日本ではこの手のCMは嫌われるので、今で言う大炎上みたいな感じであった。


 ところで、皆様は喉が乾いていないだろうか。

 ほら、コーラを飲みたくなってきたよね?

 そして、そんなときには、あいつが現れるのだ!

 そう、『ペプシマン』だよ!

 『ペプシマン』は、比較広告に向いていない日本専用に生み出されたCM用のヒーローなのだ。


 ――


 このように、コークとペプシは、まさに戦争と言っても過言ではない激しい戦いを繰り広げてきたのだ。

 麻薬、戦争、ソ連、スパイ、そしてペプシマン(?)。

 私たちが愛してやまないコーラには、これほどの狂気の歴史が詰まっていたのだ!

 こんな食品、他にあるだろうか。

 さあ、皆でコーラを讃えようじゃないか!


 そして、こうしている間にも、コーラ戦争は続いている。

 なんと、炭酸飲料のシェアで、ペプシを抜いて2位に躍り出たダークホースが現れたのだ!

 その名は『ドクターペッパー』である。


 彼らの戦いは、まだまだ終わらない。

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