第4話 電車の窓
僕は通勤に電車を使っている。
アパートから十分、いつもの商店街を抜けて右に曲がると最寄り駅。
改札を抜けて階段を上り、すでに何人もの人がいるホームの中ほどで電車を待つ。
いつもの朝の風景だ。
定刻どおりに電車が来る。
通勤ラッシュの電車の窓の奥にたくさんの人。
電車が影に入ると、窓にはホームで待つ僕とたくさんの人が映る。
車内の混雑を想像してため息が出た。
でも、ドアが開いた電車の中はすんなり入れる程度の人。
あれ?たくさんいたような?
後ろからの人に、そんな思いも体も押し流された。
仕事に疲れた夕方のラッシュ。
ホームに電車が入る。窓に映るのは、たくさんの疲れた乗客と少し疲れた僕の顔。
今日は座れそうにないかな。
仕事の疲れが心にのしかかる。
でも、ドアが開くと人がまばらな車内。
ホームにいた人が映り込んだのか?
振り向くと不思議そうな表情の人たち。
窓越しの風景との違和感。
残業で夜の電車。
待つ人の数はまだまだ多い。
ホームに滑り込む、電車のヘッドライトが眩しい。
電車の窓に、うつむくたくさんの人が見える。
僕とホームに並ぶ疲れた顔の人も、電車の窓に反射して見えた。
吊革につかまる。
ふと前を見ると空いている座席。
窓から見えるホームには、うつむく人たち。
乗らないのか。
座席に腰を下ろし、車内を見回す。
あれ?人が少ない車内。待つ人の数はまだまだ多いのに?
今日は遅くなったなぁ。二十三時。
こんな夜遅く、電車の窓にたくさんの顔。
窓に映る僕。後ろに見えるのは疲労困憊の顔、顔、顔。
ホームを埋め尽くすほどの疲れた人たち。
疲れでみんなうつむいていた。
僕も下を向いて電車を待っていた。
ドアが開いた。
そのまま電車のステップを上がる。
電車の床が見えて気が付いた。
乗客の足が一つも見えないので気が付いた。
窓に映っていた人たちは?
電車には誰もいない。
振り向いたホーム。
みんな黙ってこっちを見ていた。
うつろな目でこっちを見ていた。
「最終便、ドアが閉まります。」
電車を降りようとした。
でもドアが閉まる。
音もなく電車は動き出す。
電車の窓に映るのは。
なに。
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