心障風景

オッサン

第1話 こんな雨の夜は

「・・・管区気象台が25日に「梅雨入りしたとみられる」と発表しました。平年より15日遅く、昨年より20日遅い梅雨入りです。なお、・・・」

もう寝よう。

布団の中からラジオの電源に手を伸ばした。

23時を過ぎたころようやくラジオのスイッチを切った。

世の中が急に静かになった気がした。

雨の降るさぁっという音がだんだん大きく聞こえてくる。

アパート二階の角部屋は、外の音がよく聞こえる。

壁が薄いんだろうなと思う。

普段なら隣の部屋のテレビの笑い声や外を走る自動車のエンジン音が耳に入るのだが、今夜はなにも聞こえない。違う世界にいるようだ。


しとしと・・・雨が降る。

ぽつ・・・ぽつ・・・ぽつ・・・雨だれの音がする。


ゆっくりとしているが、規則正しいしずくの落ちる音が聞こえる。

その音を聴いているとだんだんと頭に霧がかかっていくようで何も考えてられなくなる。なんとなく寂しいような怖いような、それでも落ち着く。

そんな時間だ。

こうやって眠りにつくのだな。と、ふと思ってしまった。

それが失敗だった。

そして違和感が始まった。


さくっ・・・さくっ・・・さくっ・・・


アパートの窓側にある庭の土を歩く音が聞こえた。とても静かにゆっくりと。何かを探しているように。なんだかとても気になって、目が冴えた。


さくっ・・・さくっ・・・さくっ・・・


時々立ち止まってアパートの窓を見ているようだ。

何も考えるな。もう寝てしまえ。目を閉じろ。

生ぬるい梅雨の空気のはずなのに、背中に冷たい汗が流れた。

早く寝てしまえ。気ばかりが焦った。


ぱたた・・・ぱたた・・・ぱたた・・・


屋根のひさしから落ちる雨だれを、傘が受ける音がする。

足音の主はアパートのすぐそばまで来ているようだ。

一部屋一部屋、窓から中を覗いているのがわかる。

一階だけではなく二階の窓からも覗いているのがわかる。


・・・カーテン閉めたよな?すごく心臓の鼓動が速くなる。

でもいまさら窓の方を向けない。向きたくない。目が開けられない。

それでも布団の端からそっと薄目を開けてみる。カーテンは閉じていた。

体中から力が抜けた気がして長い息を吐く。

二階の窓の外を何かが動いた気がした。

固く目をつぶる。息を殺す。


さくっ・・・さくっ・・・さくっ・・・ ・・・ ・・・


足音が小さくなる。遠ざかる音がする。

助かった。。。なぜそう思ったかはわからないけど、そんな気がした。

安心したからだろう。僕の意識はだんだんと沈んでいく。そして眠りについた。


ぽたた・・・ぽたた・・・ぽたた・・・


すぐ近くで聞こえるそれはなんの音だろうかと、ぼやけていた頭は、その正体に気が付いて、意識が再び浮かび上がる。心臓が冷たくなる。

それは水滴が畳に落ちる音。

ニゲキレタンジャナカッタノカ?

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