第19話 あぶないあのこ
アパートの最寄り駅は高架式だ。
改札を抜け駅の出口へ向かう。
そして階段を降りる。
駅前の商店街は少し明るさの残る時刻で、人通りがにぎやかだ。
明るく活気のある風景を眺めて、人波を抜けていく。
今日は何事もなく一日が終わりでホッとしていた。
のだが。。。
今日の夕飯は何にしようかな。
たまには外食しても良いかも。
いやでも、やっぱりラヂヲでも聴きながら焼き魚とビールも悪くない。
晩御飯をあれこれと想像すると、足取りも軽い。
はずだった。。。
ひとーつ。
ふたーつ。
その声は多くの買い物客のざわめきの中でもよく通った。
僕の耳にもはっきりと聞こえた柔らかく幼い声。
そしてその声を追いかけるように首を巡らす。
みーっつ。
よーっつ。
買い物客たちの隙間から覗いているのは赤いワンピース。
襟足で切りそろえたおかっぱ頭が立ったり座ったりしている。
その女の子は、路地の方、路肩の溝蓋、お店とお店の間の隙間を覗き込む。
何かを探しているようだ。
そして何かを見つけるたびに、嬉しそうに数をかぞえる。
いつーつ。
また聞こえた。
そう思った僕が見たのは、ブルブルッと身震いして何かを咀嚼する仕草。
ごくん。
そして飲み込む音が聞こえた。
ああ、これは関わってはいけないやつじゃん。。。
さっきまでの浮かれた気分はすっかり消え失せてしまった。
僕は、買い物も早々に、アパートに急いだ。
むーっつ。
ああ。
また数えてる。
僕の歩く、先のまがり角を覗き込んだ女の子は、黒い靄のようななにかを掴んだ。
黒い靄は身(があるのか?)をくねらせてもがく。
それでも女の子の手は放す様子はなかった。
あっという間だった。
黒い靄が消えた。
頬を膨らませてもぐもぐと口を動かす女の子。
そしてちらっと僕を見て、人波すり抜けて反対側の路地を覗き込んだ。
いなーい。
八百屋の店先を覗き込む。
いなーい。。。
鳥居の柱の根本で何かを探す。
いなーい!
しかし女の子は僕の少し前を歩いている。
商店街を抜け、人影の薄れた歩道をまるで先導しているようだ。
そしてキョロキョロとあたりを見回す。
何かを探していた。
やーっつ。
なにかを見つけては、捕まえて。。。もう何も言うまい。
そしてそのたびに、僕をちらっと見る。
それだけ。
だけど。。。
こんなものをアパートに連れて帰って良いのだろうか。
駅を出たときとは真逆の気分でアパートに到着した僕に女の子はこう言った。
「ここがお兄ちゃんのお家?なんだかおいしそうなのがたくさんいるね!」
心障風景 オッサン @ossane
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