第9話 首無し地蔵

僕の住む街には変なものがたくさんある。

けれど、さすがにこれはと思うことがある。


ある日の会社の帰り道、角を曲がったとたん飛び上がるほど驚いた。

道の真ん中に首のないお地蔵様が立っていたのだ。


たしかに僕の住む街には「首地蔵」がある。

だから「首なし地蔵」があってもおかしくないってことなのか。

とはいえ、道の真ん中にどんと立っているのはさすがにおかしい。

通行のじゃまだ。

ぶつかったら危ない。

しかし、抱えて移動しようにも石のお地蔵様は重くて持ち上がらない。

諦めて、僕はその場を立ち去ろうとした。

そのとき。


ズズッ…ズズッ…

なにかを引きずる音がした。

振り向くと、角を曲がって消えていく首なし地蔵の姿が見えた。

でも、さすがにそれを追う勇気はなかった。


僕の住む街ではその日からある噂が立つようになった。

いくつもの首なし地蔵が街をさまよっている。

自分の首を探しているのだと。

気がつけば後ろに立っているらしい。

首のありかを人に尋ねるらしい。


それでも自分の首が見つからないのだろう。

今日もあちこちに首なし地蔵が立っていた。


「わたしの首を知らないかい?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る