第15話 暗殺者さま――――ごめんなさい―――― (※視点・悪逆王女)

 悪逆王女と恐れられるほど罪深く、国中の民からは嫌われているのでしょう。


 そんなわたくし――ミルフェ=エラ=マギアは、今。


「……うふふ……♪」


 天蓋のついたベッドで、ごろごろと文字通り寝ころびながら。

 温かな想いを胸に抱き、幸せを噛み締めています。


 

 明日、わたくしを城下町へ、というのです!


「えへへ……♪ こんなこと、生まれて初めてです……あ、そういえばこれって、本で読んだ……で、で……、などと思って……よいのでしょう、か……なななんてっ、烏滸おこがましいですよねっ、きゃあ~っ♪」


 つい、はしたなく足をバタつかせてしまい、シーツを乱してしまいます。とんでもない悪逆です。反省しないと。


 ……そう、本当に、生まれて初めて。


 幼い頃から、ずっと、命を狙われ続けて。

 この国を乱す元凶は、は、わたくしなのだと言われ続けて。


 ならばこそと、せめて誠心で尽くそうと、己をりっし続けて。

 楽しいことなど、幸せなど―――ただの一度として、感じたことはなかった。


 そんなわたくしが、生まれて初めて、こんなにも。



 幸せを感じていられるなんて―――まるで、夢のようで。



 そう、全てはあの御方と、出会った日から。

 ミッション達成率120%越えという、国一番の暗殺者さまである、あの御方と。


「…………」


 初めてお会いした日から――暗殺者さまのことを考えなかった日が、あったでしょうか。毎日会いに来てくださるからとか、それだけではなく。


 今のように、お傍にいない時とて、常に。


〝次は、いつ会えるのでしょうか〟

〝またお話、できるでしょうか〟

〝明日もまた、会えるのでしょうか〟―――


 を。

 待ち遠しく思えるなんて、わたくしの人生では、初めてで。


 暗殺者さまとの日々は、鮮明に。

 煌めいていて。


(……明日は、どんな一日になるのでしょう……♪)


 暗殺者さまと並んで、街を歩き。

 暗殺者さまと共に、店先のお花を眺め。

 暗殺者さまと一緒に……罪深く、食べ歩きなんてして。


 起きているのに、まるで、夢想の中にいるような。


 夜更かしなんて、きっと罪深いのに。

 意識は微睡まどろみに、落ちていってはくれなくて。


 それはきっと……こそ。


 ああ、暗殺者さま。

 ターゲットである悪逆王女なんかに。

 きっと、迷惑だろうと、自覚してはおりますが。


 ミルフェは、きっと。



 あなたを――――



「…………あら?」


 寝室の、扉の外から、物音がして。

 天蓋から垂れる薄布を、わたくしは開き。


「暗殺者さま、何か忘れ物でも……あ、もしかして、シャロさま―――えっ?」


 無遠慮に開け放たれた扉から、踏み込んできた音は。

 物々しく、荒々しい、鎧兜を身に着け、その手に槍を携える者たち。


 と―――そして。

 あまり話したことはない、確か急進派と聞いたことのある、大臣の一人が。


 わたくしに、告げてきたのは。



『国を乱す元凶たる、よ―――

 悪習の撤廃をうたう、我らの正義と権限をもって。

 貴様の処刑を、これより断行する――!』



 


 ――――


 夢は、いつか、なのでしょう。


 それが、悪逆王女と蔑まれるわたくしに、なのでしょう。


(―――


 心の中で。

 わたくしが、謝るのは。



――――――――)



 ミルフェは。



 約束を―――守れそうも、ありません―――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る