ミッション達成率120%越えの暗殺者は、灰かぶりの悪逆王女(実は聖女さま)を今日も殺せない

初美陽一

第1話 最強暗殺者の刃が、悪逆王女の命に迫る――!

狡猾こうかつなる悪逆王女よ、今宵こよいこそ御身おんみの命、貰い受ける。

 ミッション達成率120、最強の暗殺者の刃から。

 逃げられるなどとは―――ゆめゆめ思いはせぬコトだ」


 城からは人目を避けるような離れにある、小高い塔の頂上で。

 ただ一人の見張りにも発見されることなく、侵入に成功した。


 俺はソウマ=クサナギ、女王制のマギア国において、ミッション達成率120%越えを誇る―――全ての感情を排し冷酷に刃をふるう、暗殺者だ。


 そして今、薄っすらと差し込む月明かりのみが照明の、室内において。


 天蓋付きのベッドの、薄布に遮られた先で、微かに身動みじろぎする気配が。


『…………!』


「フッ………」


 暗殺者の襲来に気付き、怯えているのだろう。だが、時すでに遅し。

 今さら悲鳴を上げれど、俺の刃は刹那せつな間隙かんげきに、その命を奪い去る。


 ターゲットは、このマギア国の時期王位継承権・第一位にする、第一王女――されどその悪逆の噂は市井しせいにまで轟き、国政の汚濁おだくすべてに関わり、不当なる利益をむさぼる忌むべき存在。


 傲慢にして傍若無人な開国以来の悪逆王女・ミルフェ=エラ=マギア。



 人呼んで―――《灰かぶりの悪逆王女》―――



 ……だが、その悪名も、今日までだ。

 ミッション達成率120%越えの暗殺者たる、この俺が依頼を受けたからには。


 もはや悪逆王女の命数は、完全に尽きている―――120%越えで。


「悪逆王女よ、覚悟―――御命おいのち頂戴ちょうだいッ!!」


『あっ――――』


 鋭き刃を閃かせる、片刃の短剣を左手に―――地を蹴り、距離を詰めると。


 ベッドを遮る薄布を左右に開き、姿を見せた悪逆王女は、恐怖に歪んだ顔を浮かべているはず――!



「――――っ! いらしてくださったのですねっ♡」


「グッ……グワアァァァァッ!! 夜にあって闇を切り裂くような、陽の光の如き笑顔だとォォォ!? おのれ、何たる傍若無人な……傍若無人な美しさ!!」


「あ、暗殺者さまっ、大丈夫ですか? えっと、あまり無理などなさらず……少しここで、お休みになってくださいねっ」


「あ、暗殺者をォ……気遣うんじゃあないィィ……! くそっ、なんて狡猾で恐ろしい懐柔力かいじゅうりょくなんだっ……ぐふっ」



 左手から滑り落ちた短剣が床に落ち、カラン、と音を響かせる中。

 俺は地に膝をつき、うなだれつつ、残念ながら確信する。


 ミッション達成率120%越えの暗殺者である、この俺は。

 聖女の如き微笑を浮かべる、この灰かぶりの悪逆王女を。



 どうやららしい――――

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