第2話 悪逆王女の純粋が、国一番の暗殺者の命に迫る――!
今、俺は厳重なる警備を
そんな恐るべき暗殺者の目の前には――ターゲットである悪逆王女・ミルフェ=エラ=マギアが、ニコニコと
「~♪ ラン、ラン、ラン……♪」
「………フンッ………」
己の命に刃がかかり、風前の
まだ息をしていられるのは、最強の暗殺者たる俺の気まぐれゆえだということに、気付いてもいないらしい。
何なら、今すぐミッションを達成してしまっても、構わぬのだぞ――
「―――はいっ、暗殺者さまっ。紅茶をどうぞ♪」
「フンッ―――いただきます」
(※↓最後の『要約』だけ読むのでも大丈夫です↓※)
まあでもいつでもミッションを達成できるのだから、そんなに焦ることもないっていうか。いやそもそも別に焦ってないし。余裕を持って仕事を成し遂げるのが国一番の暗殺者の
(※↑『要約』つまり殺せない言い訳↑※)
フッ、最強の暗殺者の恐るべき計画が進行していることも知らず、精々呑気に笑っているが良いわ――
「えっと……いかがでしょうか、暗殺者さま。お口に合えばよろしいのですが……」
「暗殺者が返り討ちになって死ぬほどおいしい」
「まあ……暗殺者ジョークというやつですわね、勉強になりますっ。うふふっ♪」
「フンッ、呑気に笑うんじゃあないっ……
思わず胸を押さえ、うずくまる暗殺者に――ターゲットたる悪逆王女が無防備に駆け寄ってきて、心配そうに声をかけてくる。
「だ、大丈夫ですかっ、暗殺者さまっ……例の、持病という……?」
「っ。ああ、そうだとも……全く、厄介な病だ……」
そう、俺を
「5日ほど前……王女を暗殺すべく、ここへ忍び込んだ瞬間から、発症したモノ……そう、間違いなくコレは……突発性の心臓病!!」
「! なっ……なんて恐ろしいっ。可哀想な暗殺者さま……」
「フッ……ターゲットに心配されるとはな……滑稽だと笑われた方が、
全く、怒りでどうにかなりそうだ……具体的には王女の
そんな窮地の暗殺者に、悪逆たる王女は、更に―――!
「暗殺者さま……よし、よし、です……これで少しでも、楽になれば良いのですけれど……」
「フンッ、白絹のような
「そ、そんなっ!? いけません、そんなの……わ、わたくしに出来ることがあれば、何でもっ……ええと、ええとぉ……」
「チイッ、何もするな! ええいっ、何もするな! やめろ、もうやめろよ! 絶対だかんな、俺は恐るべき暗殺者だぞ! やったら命が危ういぞ!(俺の)」
されど命を狙う暗殺者の言うことを、ターゲットが聞くものか―――悪逆たる王女は意を決したように自身の両手をグッと握り(かわいい)、俺にトドメを刺すべく飛び掛かってきて――!
「え―――えいっ! 暗殺者さまの心臓がバラバラになってしまわぬよう、押さえちゃいますっ……ぎゅ、ぎゅう~~~っ♡」
「やめてください死んでしまいます」
「ぎゅう♡ ……はう、殿方とこんなに近づいたことなんて、一度もないので……ちょっと、恥ずかしいです……あれ? あの、暗殺者さま―――」
「グッ―――グワアアアアアッ! この、この最強の暗殺者が、こうも簡単に撃退されるとはッ……バカな、そんなバカなぁぁぁぁぁ!!」
「あ、暗殺者さまーーーっ!?」
もんどり打って倒れる俺に、何とも悪逆な恐るべき攻撃を繰り出してきた王女が、心配そうな悲鳴を上げる。
……そう、5日前に王女の寝所に潜入し、彼女と出会ってから、俺はこうして撃退され続ける毎日なのだ。毎日、だ。おのれ、何とも
そう、彼女――悪逆王女・ミルフェ=エラ=マギアは、出会った瞬間から全く変わらない。
上等なシルクのような銀色の長髪、月明かりに照らされて煌めく珠の肌。
赤い瞳で生まれたるは凶兆の証――だが魔力を高く持って生まれた者は、瞳に特徴が出るとも聞くのだが、その辺はどうなのだろう。何にせよ、真紅というより薄紅の瞳は、常に
全く、国一番の暗殺者でもなければ〝守ってやりたい〟などと問答無用で思わせるような、
……さて、ようやく動悸が落ち着いてきたところで、俺は小鹿のように震える脚で毅然として立ち上がり、王女に背を向けつつ告げた。
「フンッ、今日のところは、この辺にしておいてやる―――運が良かったな、悪逆王女よ。だがその命、長くは続かぬと知るが良い―――」
「っ! ……あ、あのっ!」
「フッ……恐ろしいか、悪逆王女よ! そうであろう、そのはずだ! このミッション達成率120%越えの暗殺者の刃に怯え、震えて眠れ――」
最強の暗殺者の威厳たっぷりに告げる、この俺、ソウマ=クサナギに。
悪逆たる王女は、不安そうな眼差しを隠そうともせず、震える声で言った。
「また……会いにきて、くださいますか……?」
「――――――――――――」
一瞬、俺が幼い頃に亡くなった祖国の祖母と、綺麗な河原で再会した気もするが。
ギリギリ
「フンッ……勘違いするな王女よ。我々はあくまでも、暗殺者とそのターゲット。決して相容れるコトなどない関係なのだぞ」
「あ……そ、そう、ですわよね……はい……わかって、おります……」
しゅん、とうなだれ、消沈する王女――そうそうコレですよコレ、暗殺者と標的の関係とはこういうこと!
もはや完全に調子を取り戻した俺は、トドメのように悪逆王女へと告げる――!
「覚悟しろ、悪逆王女よ―――次はお土産を持参して訪れるぞ―――!」
「! はっ……はい、暗殺者さまっ! ミルフェ、心待ちにしておりますっ♪」
「俺は一体、何を言っているのだーーーっ! チックショーーーッ!!」
「また来てくださいませ~っ。お待ちしておりますから~~~っ」
そうして、俺が立ち去った……直後、姫はぽつり、小声で。
「……本当に、お待ちしています……暗殺者さま……」
(おっおのれーーーっ聞こえているぞ、このぉ~~~っ健気さまで
最強の暗殺者イヤーは遠く離れた場所に落ちた小銭の音すら鮮明に拾う。セコイとか言うな。
……が、更に直後、聞こえてきた声は。
『……ケッケッケ、ようやく一人になったみてェだなァ……王女サマよォ?』
『えっ……きゃっ!? あ、あなたは、一体……?』
どうやら、ターゲットたる悪逆王女に危機が迫っているようだが――フンッ、俺に助けに行く義理など、一切ないのだからな!
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