第5話 暗殺者の恐るべき計画が、進行する――!

 こんにちは。国一番の暗殺者にして、ミッション達成率120%越えのソウマ=クサナギです。


 俺は今、マギア国の城下町を一人歩いている。夜が生業の暗殺者とて、普段の生活もあるのは当然だ。


 とはいえ日陰ひかげの仕事、こうして堂々と街中を歩く俺が恐るべき暗殺者であることなど、誰も知る由はあるまい――


『オッ、国一番の暗殺者の兄ちゃんじゃねぇか! 採れたての野菜、安くしとくゼ!?』

『あっ国一番の暗殺者さん、この前は危険度A級魔物モンスターの暗殺アザッス! こんにちは、決して公認ではない暗殺者にお礼を言う国所属の兵士です』

『キャーッ暗殺者のソウマさんよ! 今日もうれいを帯びた横顔がクールだわー!』

『キャーッ! 仕事が仕事なだけにすごくお金を持っていそうだわ。そういう意味でもモテてしまうのはやむなしなのだわ。キャーッ!』


「やめろ、やめろ……俺は表に立たぬ暗殺者、誰にも知られてはならぬ存在……やめろ、声をかけるな、名前と職業を呼ぶな……ヤメロォ!」


 クソッ! それもこれも、俺が仕事の受注なんかで世話になっている暗殺者ギルドのマスターが―――


〝いや、良い広告塔になるから。ワッハッハ〟

〝人間だけでなく、魔物が相手の仕事とかも受けやすくなるっしょ? てかその仕事の関係で、結果的に有名になってたじゃん。ウケる〟

〝よしんば顔が知られてても、アンタ普通にミッション達成して帰ってくるし〟

〝万が一、仕事が立ち行かなくなったら、お姉さんが貰ったげるから。ガハハ〟


 とか勝手に方針づけるから! しかも最後のに至っては意味が分からん!


 だが、祖国を飛び出して、この国へ流れ着いて拾われてからの、長い付き合い。恩義もあるし、仕事の斡旋は実際に助かるし、頭が上がらない相手ではある。


 下請けの辛いところだ。国一番の暗殺者といえど、そこは変わらない。


「……っと、妙なコトを考えている場合ではないな。そう、俺には今日、大切な目的があるのだ……さて、〝殺して〟っと……―――」


『キャーッ……あれっ? ソウマさん、さっきまでそこにいたはずなのに……消えちゃった?』

『なんか、薄ぼんや~りとして、透けるみたいに消えちゃったけど……?』

『フッ、おれは通りすがりの事情通……ヤツは国一番の暗殺者、常人の目には止まらぬ速度で立ち去ったのだ……そういうの詳しいンだ、おれは』


(さっきと変わらず、ここにいるのだがな。まあ気配を〝殺して〟周囲に溶け込んでいるから、素人では気付くまい。どうでもいいが)


 さて今度こそ、と歩みを進めた、俺は。

 とある店に踏み込む――そう、此処ここで仕入れるのは、いわば〝仕事道具〟。ゆえにこそ、誰に知られる訳にもいかない、見られることなど以ての外なのだ。


 当然、目的は―――〝悪逆王女の暗殺〟のため。


「ククク……見ていろ、悪逆王女よ。宣言通り、次こそはその命に迫ってくれよう……この恐るべき土産を持ってな! ククッ……ハーッハッハッハ!」


『ウオッ誰もいないはずなのに急に高笑いが!? ナニコレ怖い!』


 おっと、つい気がたかぶってしまった。反省、国一番の暗殺者、反省。


 とにかく、こうして着々と仕事の準備を終えた俺である。


 今宵こよい、悪逆王女の顔が、どれほど驚きに歪むのか……楽しみであるな――!

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