第21話 真実は、未来を紡ぐ
民の活気ある声で賑わう、城下町の昼時。
『オイ、聞いたかっ? 噂の……私服を肥やすクソ大臣だかが、なぜか急に今までの罪を自白して、刑に服したとかっつう……』
『そんなことより悪逆王女……いや、第一王女さまが、本当は悪逆なんかじゃなく……〝伝説の聖女〟さまだって話だろ!』
『悪逆とかも王女さまを
『ところで第一王子だかっつうのが心を
全く、一夜で随分と、国政の情勢も様変わりしたものだ。
例の醜悪大臣や、第一王子の陰謀や讒言が
結果、
もしも、と――国一番の暗殺者たる俺、ソウマ=クサナギは、思う。
俺に〝悪逆王女の暗殺〟を依頼した者が、ここまで予測していた、とするなら。
「あなたも、随分と人が悪いようだ―――女王様」
俺は、今になってようやく洗い出せた存在に――
変装こそはしているものの、高貴を隠し切れぬ麗しき貴婦人が、お茶目ぶって人差し指を口の前に立ててウインクする。
「しーっ、よ。国一番の暗殺者さん。魔法で周囲の認識を阻害して、姿を誤認させてはいる……とはいえ、さすがに声までは誤魔化せないわ」
「ご心配なく。我々の声は外へ届く前に、俺が〝殺して〟いますから」
「まあ、さすがは国一番の暗殺者さん♪ 私があなたの依頼主だということも察せられていたようだし、そこも称賛すべきかしら?」
「フンッ、依頼主の予測は、途中から立っていたし……俺は昨日の仕事を終えてから、仲介人でもあるギルドのマスターに確認を取っただけだ。具体的にはガチ戦闘をやり合うという方法で聞き出した。とはいえ、俺を拾った恩人だからと手を抜いたワケでもないのに、全力でも互角以上の強さだったのだが。なんなのあの女」
「ウフフ、マスターちゃんとは昔、一緒に色々とヤンチャした仲だから♪ 具体的には世界を闇で包もうとした邪竜を一緒に倒したり、世界征服を
「ヤンチャのレベルが120%越えで度が過ぎている」
何だろう。この国の女性陣は、やべーヤツしかいないのだろうか。
いやしかし、ヤンチャというなら、この件についてもだ。
「それにしても……暗殺者に実の娘である王女を狙わせるなど、悪ふざけが過ぎるのではないか? 俺はミッション達成率120%越えの、一切の感情を排する暗殺者……容赦なく仕事を
「ウフフ、だとしても……あなたが暗殺で〝命を奪う〟のは最終手段なのでしょう? 暗殺者さん、きっとあなたの暗殺は、国一番どころか……世界で一番、優しいわ♪」
「……フンッ、俺の
『―――ウィーーーッシュ! 元・山賊親分おじさんでェーーーッス! お野菜、お届けにきやしたッ! いやー二回も悪い心ブッ殺されてっと、逆にスッキリするッスよね! 地道な農作業が今日も楽しウィッス♪』
「特に同業者……暗殺者などはそうだ。この世界を良く知る俺だからこそ、汚い連中も腐るほど見てきた……例えば毒を盛るような卑怯者に、一切の容赦はせん」
『ヒヒッ、元・暗殺者おじさんです。仕入れには自信あるッス、毒とか一発で見抜けるし、もう暗殺とかコリゴリなんで、これからは真面目な仕事に励むッス、ヒヒッ』
「あまり俺を……舐めないほうが良い……!」
「まあ、怖い♪」
何だか軽く受け取られた気はするが、さすが一国の女王の胆力、というところか。
さて、話は終わったのか、女王は立ち上がり――
「では、そろそろ戻ってくる頃でしょうし……私はそろそろ失礼しますわ。あ、そうそう、暗殺のミッションについては、こちらの手違いということで取り消しを――」
「……いいや、それは断る」
「えっ?」
俺の返答が意外だったのか、女王は動きを止めるが、容赦などしてやるものか。
「一度、請け負ったミッション――事情がどうあれ、取り消す気などない。俺を侮ったコト、後悔するのだな。俺は今後も、変わらずに。
第一王女の命を狙い―――彼女の前に、現れるぞ―――!」
「! あら……あらあら、まあまあ♪ ウフフ、若いっていいわね……。
では今後も引き続き……娘のこと、よろしくお願い致しますわ♪」
「フンッ、暗殺者への言葉ではないぞ! 全く、本当に食えぬ人だ……」
よほど、悪逆女王と呼ばれても、おかしくないのではなかろうか。
さて、何やらニヤニヤとしつつ女王が去っていくと。
―――その入れ替わりに―――
「―――お待たせいたしましたっ! はあ~……おいしそうなケーキがこんなに、たくさん並んでいるなんて……わたくし、驚いてしまいましたっ♪」
輝くような笑顔を浮かべ、駆け寄ってきた、彼女は。
かつて、悪逆王女などと呼ばれていたのが、信じられないような、清廉さで。
俺は、思わず―――
「――――ウオッ、眩しすぎるッ」
『え。……キャーッ!? 国一番の暗殺者さまが、何か急に出てきたわー!?』
『まるで初めからあそこに座ってたみたいだわ!? いつの間に~!?』
「ヤベッ排した一切の感情が漏れ出て気配を殺しきれなかった。
やれやれ、全く王女は、俺の暗殺を悉く妨害してくれる。だが、それでこそ俺のターゲット、そうこなくては張り合いがないからな!
ちなみに今は、さすがにドレスは着ていないが……いや外出用というか、お忍びの私服も可愛いな、清楚系っていうか、可憐な花を彩っているというか……。
いやとにかく! ……彼女がこうして顔も隠さず出歩けるのは、人目を離すようにあの塔に隠されていたからだろう。そこだけ、本当にそこ限定で、感謝すべきかもしれない……いや、彼女を
まあ、だからとて、完全に無防備という訳でもなく。
『オイ、本当にいたぞ……第一王女がこんなとこで無防備に、不用心ってモンだぜ……急進派の底力、見せてやらぁ――』
『―――ごみ発見~~~っ! 王女サマ狙ってんじゃねーわよ、残党ってか残飯みたいな連中ねホント! お掃除お掃除~~~!』
『ゲエッ、《焔髪の戦乙女》!? 何でメイド服!? ムムッ、こりゃ色んな意味でたまらん、ひとまず逃げ……ることも許されねぇ! 強すぎギャアアアアア』
適職についた
まあ、俺も傍で王女の命を狙っているから、心配はいらないが。……獲物を横取りされる心配はない、という意味でな!
さて、
〝?〟と首を傾げる王女(かわいすぎて鼻血飲んだ)へと、俺は促す。
「さて……ここは少し、騒がしい。まだ今日は、始まったばかりだしな。そろそろ、次へ行くとしようか、王女よ―――」
「あっ。ダメですよっ、わたくしはお忍びなのですから、暗殺者さまっ」
「おっと、これは失敬……だがそれは、あなたの方こそ、だな?」
「きゃっ。わたくしったら、ついクセで……お恥ずかしいですわ♪」
そう言いつつ、おどけて笑う、彼女の顔に。
かつて全てを諦めていた、儚い面影は、もうどこにもなく。
一切の感情を排した国一番の暗殺者は、釣られて失笑し――彼女へと、手を差し出した。
「では、行こうか。ミッション達成率120%越えの俺が。
120%越えで―――エスコートしてみせよう!」
「はいっ! 今後とも、末永く……どうか、よろしくお願い致しますっ♪」
「フッ、暗殺者に言うコトではないな! まあ、いいさ……それでは」
俺が差し出した手を、儚いまでに細い手で、けれど力強く握ってくる。
その手を決して、離さぬようにと―――秘めた誓いを胸に抱いて。
暗殺者である俺は、ターゲットたる彼女へと。
未来に続いてゆく暗殺の日々を思い描きながら、告げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます