第17話 国一番の暗殺者さまに、新ミッションのお知らせです。
左腕に庇っていた王女を、俺の背後に控えさせ。
困惑している彼女は、薄っすらと紅くなった頬を月明かりに照らしながら、おずおずと告げてくる。
「あの、暗殺者さま……お救い頂き、ありがとうございます。ですが……わたくしが消えれば、このまま黙って
「――――女王制だ」
「えっ?」
俺の発した不明瞭な一言に、王女は首を傾げるが。
俺は、悪逆なまでの王女の純真を
「女王制とは、女性が最上位の実権を握る形式……裏を返せば、その下にある男の権力者、特に本来なら自分が実権を握れる立場にあるヤツからすれば、面白くないのだろう。クソくだらん自己顕示欲や我欲が強い者なら、なおさらな」
「! そ、そんなっ……ですがわたくしのお母様は……女王は健在。それに歴代の女王は清貧を
「ああ、くだらん。心から
そして、言い切ってから、俺は―――短刀の先を、大臣へと向ける。
「だが―――王位の第一継承権を持つ王女は〝悪逆だ〟などと
『! なっ……ぬ、
「ああ、いい、いい。調べはついているし、キサマのような醜悪と問答する気など、毛頭ない。……俺は、もっと尊き者のために、ここへ来たのだから」
視線は警戒と共に、血管が切れそうなほど激昂する大臣と、
俺は、背中に感じる気配へと――実は兵士に槍を突きつけられていた時から、その
薄紅の瞳を潤ませる王女へと、問いかける。
「そして調査した結果、伝承にはこうあった―――
〝薄紅の瞳を持ち生まれたる王家の者は、生まれつきにして膨大な魔力を持つ。清廉潔白なる心を持ち、国を救う天の遣い――即ち〟
―――――〝聖女である〟―――――と」
「!!」
「それでも、だ。どうだろう、王女……それでも。あなたが命を落として、それで満足するのが醜悪かつ無能な男のプライドだけだとしても。民など一切救われず、待ち受けるのが国の乱れと絶望だけだとしても。あなただけが、命を落として……それで構わない、と今でも思うのか?」
「………っ………」
「さあ、俺に―――何か言うべきコトが、あるのではないか。もう、我慢などするな。望みを、言え。王女よ、今あなたの目の前に、立っているのは。
ミッション達成率120%を越えようとしている――国一番の暗殺者だぞ」
これまでずっと、不当な我慢を
もう仕方がないと、諦めていると、耐え忍んできた、少女が。
「…………暗殺者さま…………」
今。
この時。
ついに―――
「………助けて、くださいっ………!」
大粒の涙と共に、発せられた、それを。
嗚呼、俺は、待ち焦がれていたのだろう。
今まで暗殺者を、続けてきたのは。
今この瞬間のためだと―――本気で、思えるほどに!!
「そのミッション―――国一番の暗殺者が、確かに請け負った―――!!
これより、ミッション達成率120%を確実に越えてみせよう―――!!」
俺の放った威勢が、荒れ果てた室内を揺らし、夜天を貫くほど響き渡ると。
完全に恐慌状態に陥った大臣が、
『なな、ななになにをしておる兵士どもっ……あのクセモノを、さっさと討ち殺せ! なにをしておる、さっさといけっ!』
『っ、ひっ……国一番の暗殺者って、あのクソ有名なソウマ=クサナギだろ……』
『最後に聞いた話じゃ、ミッション達成率160%を越えようとしてたんだとか……そこは意味が良く分かんねぇけど!』
『っても、ここで逃げても大臣になにされるか……くそっ、くそっ……』
『もう、どうにでもなれぇぇぇぇ!!』
さすが見るからに能力に乏しい大臣、率いる兵の士気も低そうである。
が、そんな兵士たちを見て、悪逆なまでに心優しき王女は。
「あ、暗殺者さまっ……その、大変な無理を言ってしまって、重ね重ね申し訳ございません! ですがあの兵士たちは、きっと
「フッ……安心しろ、王女よ」
「! あ……暗殺者さまっ」
ぱあっ、と鮮烈な月明かりにも負けぬ、太陽の如く煌めく笑顔を浮かべる。
そんな悪逆スマイルが輝かしすぎる王女に―――俺は横顔だけ見せ、グッ、と親指を突き上げて。
「バッチリ全員、殺してくるぞ―――任せてくれ!」
「いえあの、そういうことではなくてですね!? あ、暗殺者さま~~~!?」
まあまあ、王女の言うことも、分かるのだが。
……まあ、まあまあ、な?
国一番の暗殺者が
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