第16話 悪逆王女の末路に、めでたし、めでたし。 などと。
悪逆王女と
自国のものであるはずの兵士に、遠巻きに取り囲まれ、槍を向けられている。
そうして、急進派と
『悪逆王女よ、国政の汚濁すべてに関わり、不当なる利益を
「……………………」
《灰かぶりの悪逆王女》と悪名で呼ばれ、あらぬ罪状に
その悪名通り、怒りに、憎しみに、悪意に、表情を歪めているだろうか。
いっそ、そうであれば、まだ
彼女は―――《灰かぶりの悪逆王女》は。
「わたくしが」
―――――儚く、微笑んだ。
「わたくしが、今ここで、命を落とせば―――国は、良くなるのでしょうか?
ほんの少しでも、救って差し上げることが、出来るのでしょうか?」
『………それはもう、間違いなく』
「…………そうですか」
「それならば……良かったです。本当に……良かったです」
その微笑みに、言葉に。
嘘などは、微塵もない。
〝良かった〟と、〝自分が死んで誰かが幸せになるならば〟と。
〝それでいい〟と、心の底から思い、微笑んでいるのだ。
それを見て、果たして誰が、彼女を〝悪逆王女〟だなどと信じられるだろう?
『オ、オイ、奴……あの人が、本当に噂の《灰かぶりの悪逆王女》なのか……?』
『そのはず、だろ……国中でも、城内でも、そう知られてて……』
『けど……あんな風に笑う人が、本当に……傍若無人な、悪逆王女……?』
『バカ、滅多なこと言うな。大臣に聞こえたら、家族がどうなるか……』
兵士たちが明らかな動揺でざわめくと、場を仕切っている大臣は一瞬だけ表情を
『ふん。悪逆王女よ、貴様の自己防衛魔法は存じておる――それによって、正義を抱いて訪れた刺客を、
「! ………………」
『何せ悪逆王女が居住を構えるまでは長く使われず、老朽化が進んでいてもおかしくない。不幸な事故で……いや、それこそが天意というものだろう。悪逆の報いを、天罰によって受ける――全く以て、理屈が通ったではないか』
なるほど、塔の最上階、更にその天井部には、無数の爆薬が確かに仕掛けられているようだ。
引火すれば、天蓋付きのベッドを中心に、天井そのものが重々しく
全く、何とも人為的な天罰が、あったものだ。
そんな汚濁を誇らしげに、自らが天罰の代行者とでも言わんばかりに、処刑人を気取った大臣が、見るも
『では、どうかこの国の全ての汚濁を呑み込んで。
ご退場ください、《灰かぶりの悪逆王女》よ――』
合図するかの如く――手を振り下ろすと。
老朽化など冗談にしかならぬ、爆発音が響いて。
破壊された天井が重量そのままに、野太いギロチンの如く、降りかかっていく。
それを、王女は静かに、受け
「わたくしは、これで構いません―――これが結末で、構いません。
悪逆と呼ばれ生きてきて。そんなわたくしの人生の、最後だけは。
幸せだったのです―――本当に、それが全ての如く、幸せでした。
……ああ、でも……願わくは。ただ、心残りが……ただ一つだけ」
その細く儚い身が、圧し潰される、その寸前に。
《灰かぶりの悪逆王女》は―――呟いた。
「わたくしの、命は―――暗殺者さまに、奪ってほしかった―――」
直後。
大岩が落ちてくるような、重々しい音が、断続的に響き。
――――これにて。
国を乱す、開国以来の悪女、《灰かぶりの悪逆王女》は。
天罰を受けましたとさ。
めでたし、めでたし。
………………………………。
などと。
「ところが、悪逆王女が命を落としたとて、国が良くなるコトなどない――どころか、我欲に支配された
「…………………。
…………えっ?」
ああ、そのような結末を、認められるはずもなかろうよ。
俺は最初から、ずっと見ていたからな。
これで構わない――――はずがない。
「わたくしは………夢でも、見ているのでしょうか?」
今、右手の短刀で、バターでも裂くように、落ちてくる天井を〝殺した〟。
そんな俺の左腕の中で、信じられないとばかりに、彼女は
そうだ―――王女の言う通りだろう。
ターゲットの命を思うままにすべきなのは―――この俺なのだから!
「国一番の暗殺者にして、ミッション達成率、多分120%越えかもしれない。
―――ソウマ=クサナギが、割って入るぞ―――」
随分と風通しの良くなった天井から差し込む、鮮烈なまでに眩い月明かりに照らされながら。
暗殺者である俺は、ターゲットである王女を、庇う様に抱きしめていた。
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