第19話 約束

 ………こうして終えた大事件は、後に国中へと波紋を呼ぶことだろうが。

 まずは目下、醜悪かつ愚昧ぐまいだった大臣については。


『なぜ人は、己の痛みは理解できるのに、人の痛みは理解できないのでしょう……己の悪辣あくらつかえりみ、己の罪状を全て明かし、贖罪に尽くす所存です。隠し財産? どうぞ全て寄付いたします。一番一番、大事に罪を償うでごわす』


 俺に〝私欲〟〝自己顕示欲〟〝反逆心〟などなど……とにかく患部の如くに悪しき心を〝殺され〟て、罪に服することとなった。

 おおよその欲求を失い、醜悪な心が大半を占めていた者には、それはそれで死ぬより辛いかもしれないが、まあ自業自得ということで。


「ったくもー、なによこれ何なのよー。お掃除、大変じゃない~。まあアタシ、メイドだしやるけど! フンフンフ~……フンッッッ!!」


 シャロがメイドらしく掃除を始め……なんか瓦礫がれきとかブン投げていた気はするが、それは積極的にスルーし。


 一先ず俺は、王女へとミッション達成を報告すべく、声をかける。


「さて、依頼主たる王女よ……これにて俺のミッションは、達成だ。フフンッ、これだけ殺せば120%は間違いなく越えているだろう、クックック……」


「暗殺者さま……わたくし、わたくしっ……何とお礼を言えば良いか――」


「おっと。……礼を言うには、まだ早いだろう?」


「えっ……えっ?」


 言葉を遮られ、驚く王女へと、俺は続けて言う。



――――からな」


「! は、いっ………はいっ、暗殺者さまっ♡」



 全く、こんな大事件の後でも、曇ることを知らぬ眩い笑顔だ。


 フッ、と笑った俺は、一先ず立ち去るべく背を向けて。


(……まあ最後に、仕事のケジメは付けておかねばな)


 思考しつつ―――音も気配も〝殺し〟、俺は一瞬でその場を去った。

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