第13話 変な間取りの学園
【リリーズコンツェルト】には、公式で発表されている設定資料本、公式ファンブックというものがある。
様々な人物設定、建物構造などがこれに事細かに書かれ、この一冊を読めば【リリーズコンツェルト】の全てが分かると言っても過言ではない。
その本の中の一ページには、学園にはあまりにも似つかわしくない場所が描かれていた。
地下賭博場と、明らかに学園では絶対出てこない単語だ。
ここは、とある変人が仕切っており、日夜賭け事が行われ、お金に困った生徒、スリルを求める生徒がこぞって集まる。
なぜそんな場所が容認されてるかって?
その昔、先々代の学園長がとある生徒に脅されて作ったものだからだ。
脅されてるネタを俺は知ってるが今は重要ではないのでここでは省こうと思う。
それでも先々代の学園長は何とか譲歩して貰って、人目に付かない学園の地下――この場所なら好きにしていいという条件を提示した。
脅している側もそれを快く受諾し、地下には一部の者以外知らない、秘密の賭博場が作られた。
そして現在まで秘密裏にこの場所が継承され、今はとある賭け事好きの変人が仕切るカジノになっているとのことだ(リリーズコンツェルト公式ファンブックより)
「……というのが、学園地下に賭博場がある理由だ。分かったか?」
「全然分かんない!? 先々代の学園長は馬鹿なの!? ○ぬの!?」
コモリンはあまりの先代の学園長にお怒りのようだ。
まぁ、ファンブック見ると、先々代のやらかしは他にもいくつも散見されるから、俺も擁護出来る気はしない。
よくこの設定あって学園がまだ残っているな~とは思うが、まぁ漫画の設定に一々突っ込んでも仕方がない。
コモリンはプンプンと怒りながら前へと進む。
「こんな不健全な場所は即刻潰すべきだ!」
「そうだな、じゃあ今日中に潰そうか♪」
「そうだ! 今日中に潰――今、何て?」
俺の言葉に思わず振り返るコモリン。
自分で言い出しておいて、何で驚いてるんだこいつ。
「えっ? 本当にお前百花良助か? ボクの意見に賛同するなんて、熱でもあるんじゃないか?」
「一番の協力者に向かって随分な口だな? ここに来たのはコモリンの恋を手助けするって理由もあるが、ちょっとこの場所には個人的に用事を済ませに来たんだ」
「へぇ……変人同士の縄張り争い何かでも始めるのか?」
「コモリンが俺達を珍獣扱いしてるってことだけはよ~く分かった♪ ――テメェ後で覚えとけよ?」
「お、脅しには屈しないぞ! 風紀委員は屈しない!」
コモリンはそう言いながらビクビク震えて前へと進む。
地下の階段をゆっくりと進むと重い鉄の扉が現れる。
俺はコモリンの顔を見やった。
「ついて来るつもりなら止めないけど、俺の側から絶対離れるなよ? 離れて何かされても、俺は助けないからな?」
そう言うと、コモリンは目をかっ開く。
「いや、ちょっと待て!? 何故そんな事態になるような状況があるんだ!? ここ学園の敷地だろ!?」
「この先のエリアが日本国憲法通じずってことだな。よくあることだ、気にするな」
「そんな犬鳴村みたいなことが、普通の学園に合ってたまるか!?」
隣でキャンキャンと犬のように叫ぶコモリンを無視して扉を開けた。
扉の先は、目を焼く程のきらびやかな装飾が施され、スロットの機械音やルーレットのボールが転がる音、カードをめくる音がそこかしろから聞こえてくる。
人も様々、制服をしっかりと来ている奴もいれば、私服、SPのようなスーツ姿の男子生徒、バニーガールのような際どい恰好をした女子生徒もちらほら見える。
そして、カウンターの隣同士でイチャつくバニーガールの姿を発見した。
俺は思わずパシャリとスマホで写真を撮る。
「バニーガール同士の百合、実にいいな(ニチャア)中々来ることなかったが、これはこれで面白い♪」
「な、な、な!?」
コモリンは隣で顔を真っ赤にしてフリーズする。
しばらく経つと、いきなり俺に掴みかかってきた。
「何て不健全な場所なんだ! 賭博に、あのような格好の女子生徒まで! 恥を知らんのか!!」
「俺にキレんなっての……」
俺はコモリンの手を体から振りほどく。
「だから言ったろ? ここでは常識は通じない、もしここで自分の我を押し通したいのだったら――」
「賭け事で勝敗決めるのが常識やで?」
俺の言葉を遮るように、くせのある口調の少女が割り込んでくる。
肩掛けのスーツ姿の大和撫子少女。
設定資料で存在は知ってたが、やっぱり存在するのか。
本編設定だけだったら、分からなかっただろうな。
変人六天王、ギャンブル狂いの戸隠賭姫。
俺は営業用スマイルを作り、ニコッと笑う。
「こんにちは、戸隠賭姫先輩。わざわざここの支配人様が来て下さるとは光栄ですね」
「かたい、かたいで良助はん? もうちっと気楽にいこうや? ここの仕切りしとっても、同じ生徒に変わりありませんやん?」
ケラケラと軽薄に笑う戸隠。
お互いに笑っているが、一挙手一投足で、腹の探り合い。
いつもなら相手がどういう人物なのか話しただけで分かるが、俺にはこいつの考えてることが全く分からなかった。
後は、設定資料の性格と照らし合わせて慎重に話を進めるか――俺がそう思っていた時だった。
コモリンは何故か、意気揚々と前に出た。
「あんたがここを仕切ってる生徒か?」
コモリンがそう言うと、戸隠は口元を手で隠しながらクスクスと笑う。
「まぁそうやなぁ、分不相応にもここの仕切り役を任せてもらってます」
コモリンは、ビシッと戸隠を指さす。
「なら、即刻ここを立ち退いてもらおう! 明らかに校則違反どころか刑法185、186条にも引っ掛かる代物だろう! 全員風紀委員の名の元にしょっ引いてやる!」
「おやおや、お連れ様は元気でいらっしゃいますな」
戸隠は俺を見てニコニコと笑う。
「いやでも困りましたなぁ……うちは別にかまへんのやけど――」
戸隠がパチンと指を鳴らすと、ゾロゾロとSP風のスーツを着た、屈強な男子達が集まってくる。
そして、わざとらしく笑う戸隠。
「この子達が黙ってられへんのよ? 寛仁したってな? うちもこないなことしたくあらへんのよ?」
ゆっくりと距離を縮めてくる男子生徒達。
俺は頑張って笑顔を保ってるが、冷汗が止まらない。
コモリンは俺の穏便に事を運ぶ作戦を物の見事に破壊してくださりやがったな!?
やっぱこいつ疫病神だ!
恋が成就したら、絶対もう二度と手貸さねぇからな!!
俺は深く息を吐き、呼吸を整える。
落ち着け、思考を巡らせろ。
状況、場所、人、全部計算して導け。
数分後の百合を見るための勝ち筋を……。
しばしの熟考、そして俺は嘘で塗り固めた笑顔を戸隠に向ける。
「なら、ここはここのルールで白黒決めようか?」
「つまり?」
戸隠は答えが分かっているのか、クスクスと意地悪く笑う――俺はスゥと息を吸い込み、テーブルを指さす。
「お前の大好きな賭け事……それで決着つけようか?」
俺がそう提案すると、今日一の笑顔で戸隠は笑った。
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