第2話 主人公様と百合豚
部室から移動した俺達は夕暮れの教室にいる。
俺はメイクするため椅子に座ったまま、目を閉じている。
目を閉じている分余計に周りの音が鮮明に聞こえてきた。
「完成で~す♪」
「おぉ、前から顔立ちだけはいいとは思っておったが、これは……」
「二次オタの拙者でも、これは息を吞むレベルでござる。言われなければ男だって絶対にバレないでござるよ? ――これで、中身が百合豚でなければ完璧でござったろうに……誠に残念でござるよ」
「全部聞こえてんだよ、お前ら!?」
俺が目を開けてくわっと口を開くと、全員が残念な者を見る目でこちらを見てくる。
「低音イケボなだけに、バ美肉感がすごいでござるな? V系配信だと思えばいいのでござるが、現実だと頭バグリそうになるでござる」
「喋らなければ女には見えるな――喋らなければ!」
「あらあら、これはこれで……じゅるり」
「おい、一人だけヤバい奴がいたぞ!? つまみだせ!?」
俺はバッと立ち上がり、桃恵から距離をとる。
こいつの守備範囲、マジで広すぎんだろ。
友人の女装姿までいけるとか引くわ……。
教室のガラスに映った自分を見る。
黒い長髪のウィッグが元々ハーフである俺の青い瞳を強調し、身長が若干高くはあるが、モデル体系と言われれば納得がいく範疇の代物だった。
自分の目から見ても、よく俺がここまでの美少女に仕上がったなと思う。
機市がゲーム作りのモデリング資料用として持っていた長い黒髪のウィッグを付け、桃恵は俺のサイズピッタリの女性用の制服と首元で男とバレないように隠すスカーフ、化粧まで施したらあら不思議♪ 美少女の完成です(やけくそ)
……つうか何で俺のサイズの制服持ってるのかは、深くは考えないようにしよう。
多分、触れたらダメなやつだ。
これが女性だったらどんな百合展開を繰り広げてくれるのかと妄想が膨らむ――だが、それが自分だと思うと吐き気がしてきた。
百合の間に挟まる男は〇ね。
それは自分であろうとも例外ではない。
部長はウキウキとした様子でこちらを見ている。
「うん♪ これなら、高身長同士の百合にはピッタリの配役だな♪」
「初手からマニアックだなぁ。もしかして、自分の背が低いの気にしてる? あぁ~だから高身長の百合が希望なのか(自問自答)安心しなって百合は全てを受け入れるからさ♪」
「大丈夫でござるよ。ロリは需要があるジャンルでござる……二次元だと(ボソッ)」
「き、気にしてないし! 小っちゃいなんて思ってないしぃ? いいからさっさと準備しろ!」
プリプリと怒りながら部長が睨んでくる。
あっ、これは図星だ。
三人は心の中でそう思った。
「では桃恵との対面している画から撮って……」
部長がポケットに手を突っ込むが、何も握らていない状態の手がポケットから出てくる。
「どうしたんだ?」
渋い顔をした部長が、こちらに視線を向ける。
「我としたことが、スマホを鞄に入れた状態のままだった」
「私もですね?」
「拙者もそう言えばスマホを机に放置したまんまでござる」
「全くお前ら仕方ねぇな。俺のを貸して……って、俺もスマホは部室で脱いだ上着のポケットだ」
「「「「……」」」」
そう、誰もスマホを持ってきてないのである。
――言ってる場合じゃないな。
「いや、どうすんだよ?」
「……仕方あるまい、盟友以外はスマホを取りに戻るか」
「何故に三人一緒!? 誰か一人くらい残れよ!」
三人が視線を交差させ、真顔で俺を見る。
「「「いや、だって女装男と噂が立つの嫌だし」」」
「お・ま・え・ら・なぁ~!」
「「「うわぁ~逃げろぉ~(満面の笑み)」」」
俺が文句を言ってやろうとしたら、全速力で教室から出ていきやがった……(絶望)。
えっ、どうすんのこの状況?
下手に教室から動くわけにもいかないし。
取りあえず、あいつらが来るまで、待つしかないか。
幸い、今は見た目だけは美少女高校生。
喋りさえしなければ、教室に居ても問題ないはずだ。
――よし、その作戦で行こう!(ヤケクソ)
俺は暇をつぶすため、窓から外の様子に目をやった。
校庭では運動部が青春の汗を流している。
そこにはハイタッチして喜ぶ運動部女子の姿。
中には喜んで抱き合って勝利を分かち合う子もいる。
いや~いいですなぁ~(ニチャァ……)
今日も青春の百合が、綺麗に咲いてますねぇ。
ボーイッシュ系とポニテ少女の組み合わせは実によき♪
ニコニコと百合を眺めているとガラガラと教室の扉が開く音がした。
その音に俺はドキリと心臓が跳ねる。
あいつらが帰って来た?
――いや、足音が一人分しか聞こえない。
だとしたら何か?
そんなの、教室に用がある学生以外にあるわけがない。
ゆっくりと音のした扉へと顔を向ける。
そこには漫画越しに何度も見た顔があった。
リリーズコンツェルト内において圧倒的な人気を誇り。数多の女性達のピンチを救い、幾万の漫画ファンとヒロインを落としてきた優しさの化け物。
主人公、【
「……」
まずいまずいまずいまずい!
主人公とのエンカウントは予想外だ!!
下手に関われば、この漫画のストーリーが破綻する。
いくら、ストーリーが終わった後のことだとしても、だ。
もう、漫画の最終回までの年月はここで過ごしている。
今までストーリーをなるべく壊さないように立ち回ってようやく……ようやくここまで来たのだ。
だから今回の出来事は最終回後の蛇足。
もしくは本編には全く関わってこない出来事のはずだ。
だから原作と多少違う動きとしても、然程影響はないだろう――だが、万が一がある。
俺が死んだ後に、もしも続編何て物が出ていたとしたら?
それに関わってくるフラグを知らず知らずのうちに折ってしまっていたら?
絶対、目も当てられない状況になってしまうこと必至だ。
限りなくゼロに近いが、最悪の事態を考えてしまう。
俺が百合を邪魔してしまうのは大問題だ!!
それだけは絶対に避けなくては!!(決意)
百合騎士に俺はなる!!(二度目の決意)
……というか、何で主人公様は俺を見て固まってんだ?
まさか……女装だとバレた!?
尚更めんどくさいことにならないうちに、この場を離れよう!!
他の奴に見られるかもって?
主人公様と関わるよりかは何倍もましだっての!!
「……(ニコッ)」
「~~~~ッ!?」
俺は主人公の隣を通る時少しだけ苦笑いすると、主人公は、心の内を表したように澄んだ瞳を見開く。
……俺がキモ過ぎて硬直したか。
地味にショックだ。
いや、今は教室を後にすることが優先だな。
俺はそそくさと教室を後にする。
何か去り際に主人公様の顔が赤かった気がするけど、多分夕焼けのせいだよな?
俺は教室の扉を閉めて、中から見えない所まで移動したら、俺は全速力で部室まで走る。
うん、今回の失敗は忘れよう。
次の日に、主人公様がバラしたら(多分、主人公の性格上ないとは思うけど)教室で女装する変態のレッテルを張られるかもしれないが、そんなのは百合を邪魔することに比べれば些細なことだ。
出来る事なら忘れてくれ主人公……。
百合の間に俺はノイズすぎる……。
部室の前まで着くと、勢い良く開けた。
「おんどりゃッ!! 遅すぎるんじゃぼけぇッ!! 女装させて教室に放置とか罰ゲームか何かかぁッ!!」
そう言って中に入ると、三人ともスマホ片手にゲームをしながら、こちらを見た。
スマホを取りに行くと言っておきながら、忘れてスマホゲーしてるとか、マジでふざけんなよ!?
「「「あっ……」」」
「あっ……じゃねんだよぉッ!? 俺がどれだけ大変な思いしたと思ってんだ!? 自分から頼んで置いて何してやがるんですかねぇ? あ゛ぁん?」
俺が怒っているにも関わらず、部長はヘラヘラと笑う。
「いやぁすまない。我らは日課であるデイリー周回のことを忘れてて、三人でやってたらこんな時間に……」
「反省はしているわ」
「だが後悔はしていないでござる」
「そうかそうか、君らはそういう奴だったな(真顔)」
こいつら、いつか絶対泣かす。
俺はゴソゴソと上着を脱ぐ。
「今日は遅い、続きは明日で……って、きゃぁぁ!? 何で急に脱ぎだすのよ!?」
「うるせぇっ! もう二度と女装なんてやるもんか! 俺は今すぐにでも帰らせてもらう!」
「だからって、ここで着替えなくてもいいじゃない!? いやぁ……本当やめて良助ぇ……(涙目)」
「あらあら♪ 女子の前で脱ぐとは、エッチですねぇ♪」
「……いやなスチル解放イベントでござるな。夢に見そうでござる」
俺は人目も気にせず、服を着替える。
部長は手を覆い(手の隙間から見える)
桃恵は面白そうに、機市は冷めた目でこちらを見ていた。
そう、これはいつものような部活でのバカ騒ぎ。
日常の一コマとして終わるはずだったんだ。
次の日のあれを聞くまでは……。
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