第15話 悪をもって悪を征す
俺が勝利を収めると、机の下から小守が出てくる。
「勝ったのか!?」
親指を立て、小守に向けた。
「あぁ、だから言ったろ? 次は勝つって」
「フラグだと思った……」
「失礼だな、俺はやると言ったらやるぜ?」
勝利を喜ぶ俺達……反対にあっちは……。
負けたショックで呆然とする戸隠。
今だに信じられないんだろうさ。
何せ――イカサマしてまで負けたってことが、ね。
俺は構わずズカズカと歩み寄る。
「賭けは俺の勝ちだろ? 約束通り……」
瞬間、戸隠はパチンと指を鳴らす。
ゾロゾロと最初の時のように黒服達が集まってきた。
「……何のつもりだ? ここでのルールに則ってした賭けだろ? 反故にする気か?」
ユラユラと戸隠は立ち上がり、こちらを指さす。
「認めへん、うちは認めへんで? イカサマや! イカサマしてるに決まって――」
「イカサマしてたのはそっちだろうが? 分かりやすく合図送りやがって、気付かないとでも思ったか?」
ため息交じりにそう言うと、戸隠は目を見開く。
「~~~!? 気付いとって……いや、もうどうでもいいことや――やれ」
ザッザッザッと黒服が俺達に近づいてくる。
――正直がっかりだ。
「賭博者としてのプライドすら無くしたか。俺はあんたに案外期待してたんだがな? 同じく自分の譲れない美学を持った奴だと」
戸隠は俺を鼻で笑う。
「プライド何かで飯が食えるかいな! うちは自分が勝つ賭博だけをしてたいだけやねん! この場所守るためやったら、うちはどんな汚い手でも使うで!」
戸隠は歯をギリギリときしませる。
「ちなみにそいつらはうちに忠誠を誓っとる連中、この場所で賭博をしていたい連中の集まりや、お得意の金や権力で懐柔しようとしても無駄やで!」
小守が俺の側に近寄って体を揺すってくる。
「ど、ど、どうするんだ!? 囲まれて逃げ場が……」
「……なぁ、俺って百合豚ってことは知ってるよな?」
「こんな時に一体なんだ!?」
アワアワとする小守がより一層俺を揺さぶってくる。
俺は気にせず話し続けた。
「ずっと考えてたんだが、もし、尊い百合が何者かに脅かされそうになった時、いくら金や権力が手元にあったとしても、お金や権力が全く通じない奴とか、突発的な暴力に対しては、それらは何の意味もなさないと、常々そんなことを思ってたんだ」
「それはここで話さなきゃいけないことなのか!? 今は逃げなきゃまず……あっ――」
俺達の近くまで一人の黒服が走ってきていたのを、小守は視認した。
黒服の一人が俺達に近寄り、拳を大きく振りかぶる。
「きゃっ!?」
コモリンは目を瞑って地面にしゃがみ込み、身を守る。
瞬間、パシッと何かが当たったような音が響く。
「いたっ……く、ない?」
コモリンが恐る恐る目を開けた。
俺が黒服の振りかぶった拳を左手で受け取める。
黒服が慌てて振り払おうとするが、びくともしていない。
「だから、俺は一つの答えにたどり着いた」
俺は黒服の拳を無理矢理引っ張り、そのまま襟首を掴んだ後、黒服の体は宙を舞う――ドンッ!!!
空気が震える程の風切り音が響くと、戸隠の近くを黒い物体が横切る。
「……は?」
戸隠が慌てた様子で振り返ると、そこにはぐったりと力なく倒れる黒服の姿だった。
「……噓、やろ? 映画やないんやで!?」
人が吹っ飛んだという出来事に対して理解が追い付かず、頬をヒクつかせる戸隠。
俺は首を回して、パキパキと音を鳴らす。
「それは力だ、どんな暴力も覆す圧倒的な力が、俺には足りてなかったんだ。だから俺は幼少の頃からひたすらに筋トレを重ね、己を磨き続けた――全ては百合を守るため」
そう俺が言うと戸隠は後ずさる。
「こ、こいつイカレとるわ……せ、せやけど所詮一人や! 集団で袋にしてまえ!!」
戸隠の声に反応してた黒服が四人一斉に走り寄ってくる。
「コモリン、危ないから机の下にでも隠れとけ」
「えっ!? あっ、うん」
コモリンは訳も分からない状態で机の下に潜るのを確認したのち、俺はファイティングポーズをとった。
「ちょっとこの数は投げられないな――少し痛いが、我慢しろ、よッ!!」
一気に距離を詰める。
迫る拳や蹴りを、右に左に避け拳を強く握った。
右フック、左フック!
「ボディっ!?」
「ショルッ!?」
ローキック、ハイキック!!
「ニー!?」
「スタマック!?」
殴りや蹴りをお見舞いすると、痛みで立っていられなくなった黒服達がバタバタと倒れていく。
パキパキと指の節を鳴らす。
「弱すぎないかお前ら? ギャンブルのしすぎで体なまってんじゃないか? 賭け事してる暇あるなら、筋肉を鍛えろ、筋肉を」
俺は倒れる黒服を足蹴にして見下ろす。
その光景を見た戸隠の表情がドンドンと青ざめる。
「な、何なんやねん、あんさんは!?」
俺はニヤリと笑い、腰に手を当てる。
「お前らとは鍛え方が違うんだよ。お前も百合を守る誇り高き百合豚の使命に目覚めれば、これくらいのこと造作も無く出来るように――」
「なるわけないやろ!? アホぬかすな!? いいからさっさとくたばってくれや!!」
戸隠は半狂乱になりながらゴーサインを出し、更に人数を増やして襲い掛かって来た。
「数増やしても……一緒だっつう、のッ!!」
「ぐわぁぁぁ!!?」
俺は下に転がってる黒服を迫ってくる奴らに投げつけた。
バタバタと迫ってきた黒服達はピンボールのように倒れていく。
「よっ! はっ!」
「ぐべッ!? がはッ!?」
その上を通り、顔に蹴りを入れていく。
これがいわゆる死体蹴りと……いや、死体になる前だから死体になる蹴りと言えるかもしれない。
「死体になる前になる蹴りは死体蹴りなのか?(哲学)」
「どうでもいいよ!? どちらにしろ今、百花がやってることはただの外道だよ!?」
コモリンが机に潜っているせいで、机が喋っているように見えるな――ちょっと面白い。
俺は黒服を踏みつけてコモリンを見る。
「外道とは失礼な? 振り返る火の粉を払ってるだけだ……ってのッ!!」
机に手を置き、机の下にいるコモリンを狙った黒服の顔面に体を捻って蹴りを入れる。
俺はそのまま机の上にドガッと座った。
「おいおい? 非戦闘員狙うなんてプライドないのか?」
そう言うと、戸隠はこれも防ぐのかというくぐもった表情をする。
「悪いんか?」
「いんや~? 悪党としては正解だ――だがな?」
連中を嘲るように俺は口角を歪ませる。
「それじゃ三流だ、だからお前らに見せてやるよ?」
机の上から飛び上がって、黒服達へ殴りかかる。
「本物の悪党って奴をな!! こっから先は悪党の時間だぜッ!!!」
――そこからはただの蹂躙だった。
圧倒的な暴力を前に、黒服達はなすすべもなく倒れ伏す。
後に残ったのは、重体で転がる黒服。
その光景を間近で見て、体を震わすコモリンと戸隠。
俺は黒服達を一か所に集めた後、パンパンと手を払う。
「はい、しゅ~りょ~♪ いや~久し振りに暴れたから気分爽快だな♪ 事故処理は後でするとして、今は」
戸隠に対して俺が視線を向けると、ビクッとその体を震わせた。
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