第14話 賭けは時の運らしい?

 俺が啖呵を切って数分後。

 互いにテーブルに座り、向かい合う。

 戸隠は自分の好きな賭け事が出来て嬉しそうだ。


「いやぁ、まさか良助はんと賭け事に興じられるとは今日はついてるわぁ」


「俺も楽しみで――」


「おい百花! あんた何で賭け事して……」


「――ちょっと失礼」


 俺はコモリンの頬を思い切りつねる。


「いだだ!? 何ふるん(するん)……」


「誰の! 誰のせいでこなったと思ってんだ! お前が考えなしで突っ込んだから、周りはこわ~いお兄さん達に囲まれて完全に逃げられない状態! だから仕方なくこんな展開に持ち込むしかなくなっちまったんだろうが! この貧乏神! てめぇが百合じゃなかったら速攻切り捨てたかんな! 分かったらそこで黙って見てろ! 分かったな!!」 


「ふぁい(はい)……」


 頬から手を離すと、コモリンはテーブル下に引きこもり、落ち込んだ様子でうつむく。


 俺は深く息を吐き、冷静さを取り戻す。


「すまない、取り乱した」


「か……まへん……よ(爆笑)」


 今にも腹を抱えて笑いだしそうになる程、戸隠は一連のやり取りを笑っていた。


 さて、その笑い……二度と笑えねぇよにしてやるよ。


 戸隠は笑いが治まり、ポケットからトランプを取り出す。


「勝負はポーカー、配られた五枚のカードを一度だけ交換し、強い役を揃えた方の勝ちのシンプルなルールや。役の説明はいるか?」


「知ってるから問題ない、続けてくれ」


「上々や、そしてこのゲームの肝はチップの存在や」


 ジャラジャラと机の上にチップが置かれた。


 それぞれ1、10、100、1000。

 ――と描かれた四つの種類のチップが存在する。


「それぞれ一回の勝負事にこのチップを賭ける」


 戸隠はチップを一つ取り、ニヤリと笑う。


「相手が賭けた金額と同じ額だけ、な?」


「なる程、じゃあそっちが有利な条件なわけだ。俺の持ち金なんて高が知れてるし、手持ちは確実にそっちの方が多い、それで手持ち以上に賭けられたら一発で破産だもんな?」


 ルールの穴を指摘すると、戸隠は首を横に振る。


「そんなんじゃ詰まらへんやん? 賭ける金額は全部そっちが決めていいで?」


 戸隠はあっけからんとそう言った。

 それが意味するのは、自分のアドバンテージをかなぐり捨てると言ってるようなもんだ。


「……随分気前がいいな?」


「うちはこの勝負楽しみたいねん。運が強い方が勝つ、それくらいシンプルでいいねん! 勝負っちゅうのは出たとこ勝負や!」


「なるほど、じゃあその運が俺に味方することを祈るよ」


「ご理解していただき、ありがとうやで」


 戸隠はニコニコと表情が読みづらい笑みを浮かべる。


「ほんなら、ゲーム開始といきたいんやけど、まずは手持ちのチップをいくらで買う?」


「か、金とるのか!?」


 机の下からコモリンの声が聞こえる。

 俺は黙ってろという意思表示を机の上から左手で叩くことで示す。


「ひっ!?」


 それ以降コモリンは声を発しなくなる。

 俺は肘をテーブルに着く。


「チップに描かれてるのが金額ってことでいいのか?」


「そうやで……ほんでまずいくら買うん? ちなみにうちらの手持ちチップは――」


 黒服が脇からジャラジャラと1000と描かれたチップが大量に机の上に並べられた。

 あっという間に、戸隠の側にチップタワーが完成する。


「百万、うちの全財産や。これ減らせば良助はんの言う事大人しく聞きましょか」


 余裕たっぷりの笑みを戸隠は浮かべる。

 俺は財布から、十万取り出して投げつけた。


「まず十万分のチップくれ」


「流石財閥の御曹司♪ 最初から気前いいわ♪」


 俺の十万円がチップに変わり、小さいチップタワーが俺の側に置かれる。

 バニーガールのディーラーが互いに五枚づつカードを配り、お互いにカードをめくった。


 クスクスと戸隠はカードで口元を押さえて笑う。


「さぁ、楽しい楽しいギャンブルのお時間やで」


「吠え面かくなよ?」


 そして、戦いの火ぶたは切って落とされた!



 □□□



 ――数分後。


「はい、フルハウス♪ またうちの勝ちやな♪」


「クッソォォォ!!!」


 良助、ワンペア。

 戸隠、フルハウスでこの勝負は良助の負け。


 何戦か勝負したが、良助は負けに負けこみ、良助の手持ちチップはあえなく全て無くなった。

 いわゆる素寒貧の状態だ。


「何してるんだ百花!? あれだけの啖呵切っておいて!?」


 下にいた小守も思わず、良助の体を揺する。

 良助は体をプルプルと怒りで震わせた。


「うっせぇッ!! 次こそは絶対勝てるんだよ!!」


「それギャンブルの負けがこむ時にいうやつだぞ!?」

 

 それをカードの陰で、ほくそ笑む。


 負けがこむ?

 当たり前や、何たってうちはイカサマしとるんやからな。

 ディーラーには、うちらでしか分からない合図で、何のカードを渡せばいいのか指示して配らせとる。

 このイカサマがバレるわけあらへん、つもりうちの勝ちは確実や。


 良助はん、この勝負に乗った時点で、あんさんの負けは決まってたようなもんなんやで?

 精々あんさんのお金、ぎょうさん絞り採らせてもらうわ。


 うちはニコッと笑う。


「どうしはります? まだ勝負続けます?」


「当たり前だ!」


「もうやめようよ~」


 良助はんは、負けず嫌いのようやさかい、もう小守はんの声も届かへんようやな。


「じゃあ、チップの購入はいかほ――」


 良助はんは、懐から分厚い紙束……いや紙幣を取り出した。


「しめて二百万、そしてオールインだ!」


 良助はんは真面目な顔で宣言する。


「おぉ、勝負に出たな! なら、うちも全力で答えるで!!」


 うちはそうは言ったものの思わず笑いそうになったわ。

 典型的なギャンブル下手。


 負けを取り返そうと倍以上賭けるとかバカの所業や。

 所詮はお金持ちのボンボンってことやな。

 最後に華々しく散らせたるわ。


 良助はんのタワーはうちより倍の量積み上がった。

 これがうちの物になるかと思うとゾクゾクするわ。


 うちは手元にフォーカード、三番目の強い役が来るように指示する。


 カードが配られると、その通りにフォーカードが手元に来た。


 流石にストレートフラッシュは疑われるさかい、次点のフォーカードで勘弁したるわ。


「交換されへんの?」


「いや、これでいい」


「ほうか」


 うちはニヤリと笑ってカードを公開する。


「フォーカードや! どうや勝てるか!」


「……」


 良助はんは手札をじっと見つめたまま、動かない。

 良助はんはカードと険しい顔で睨めっこ状態。

 どうやら手札が悪いらしい。


 勝った!


 勝ちを確信して高笑いしそうになる。


 流石にショックだったんやろな?

 でも、これが勝負の世界や、潔く諦め……。


 瞬間、ゾクリと背筋に寒気が走る。


 ここで嫌な予感やて?


 ……そんなわけあらへん。


 うちは……うちは確実に勝ったはずなんや!


 恐る恐る視線を良助はんの顔を移す。


「……!?」


 その顔は勝負を諦めた負け犬の顔やなかった。


 運命の神様さえ笑い飛ばすような不敵な笑み。

 そして眼光はこちらの全てを見透かしたかのように、こちらを射抜く。


「俺あんま役詳しくないんだが……これは強いのか?」


 ピラピラと捲られたカードを見て目が釘付けになった。


 スペード10~Aまでのカード五枚。


 65万分の1の確立を……この男は引き寄せたのだ。


「その表情を見ると、どうやらこの勝負は俺の勝ちのようだな?」


 涼し気に……さもこの現象が当たり前のように……この男、百花良助はそう言ってのけた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る