第6話 転生者(二人目)
放課後、美学研究部の部室にて活動をする変人集団の部活動メンバーと、その部室に不釣り合いのお客様が来ていた。
「今日はよろしくね♪ 美学研究部のみんな♪」
「ふんっ! ありがたく思いなさいよね!」
この部室に主人公様と長名さんが来ているのである。
俺は外面ようの営業スマイルを二人に向けた。
「やぁ、結城さん長名さんいらっしゃい、今日は無理を言って来てもらって申し訳ないね?」
「気にしないで、いつも百花君には手伝ってもらってるし、小説のモデル何て照れるけど、美千代と一緒なら頑張ってみるよ♪」
結城さんが長名さんに抱き着くと、カァと長名さんは顔をゆでだこのように赤くする。
あぁ……いいっすねぇ(ニチャア)
このために仲を修繕したかいがあったというものだ。
幼馴染っプル最高ですぅ……。
長名さんは顔を隠すようにそっぽを向く。
「か、勘違いしないでよね! 別に奏と一緒になれるから引き受けたわけじゃないんだからね!」
「もう~美千代は素直じゃないんだから~♪」
ツンツンと結城さんが長名さんの頬をつつく。
やはり生の百合は最高だな!
どこかの偽百合営業を持ち掛けたどこかの誰かとは大違いだ。
「さて、では早速準備に――」
「「「ちょっと待て」」」
俺が意気揚々と準備に取りかかろうとした所を、部活動メンバー全員に待ったをかけられた。
「……何だよ、今いいところなんだから邪魔するなよ」
「何でこの陽キャ代表格みたいな二人がいるんだ!? 我のような陰キャを消滅させたいのか!?」
「そうですよ! 奈中ちゃんみたいなコミュ障ド陰キャに何て仕打ちをするんですか!」
「そうでござる! 身内同士でしかイキれない中二病娘を殺す気でござるか!」
「そうだそう――貴様ら擁護に見せかけて我を愚弄しているな!?」
ワァワァとわめく部長に目線を合わせるように腰を低くして、ニコッと笑う。
「誰のせいで呼ぶ羽目になったと思ってんだ?」
「ひっ!?(怯え)」
俺が笑顔を崩さず声だけ低くすると、部長は怯えてガタガタと震え出す。
「一昨日取材のために奈中が女装させたのにもかかわらず放置しやがったから、参考写真は一枚たりとも撮れてない……だが百合小説は進めなくてはならない。そして俺は女装するのはもう二度とごめんだ。なら、俺が責任もって代役を呼んできても――問題はねぇよな?」
「は、はい!? ないでありまする!?」
焦りすぎて口調がおかしくなる部長。
よし、これで先日のお返しは出来たな。
俺はスッと立ち上がる。
「じゃあ、頑張って取材行って来れるよな? 部長♪」
「行ってまいります!!?」
ビュ~ンと二人の元へと部長は走って行く。
俺は目線だけ桃恵に向ける。
「桃恵、部長のサポートに行ってやれ。コミュ障の部長じゃ絶対何かやらかす」
桃恵は頬に手を当てる。
「いいですけどぉ……それが分かってるのなら自分で行けばいいんじゃないですかぁ?」
「愚問だな」
俺はスチャっとカメラを構える。
「あの百合空間に入れるのは女の桃恵だけに決まっているだろうが!! 百合万歳! 百合に栄光あれ!」
「はぁ……そんなことだろうと思いましたぁ。仕方ないですねぇ行ってきま~す」
素直にゆっくりと歩いて行く桃恵。
三人に合流し、四人組の女の子達が集まる。
最高の百合だぁ(ニチャリ)
俺がカメラを構えながら悦に浸っていると横から声を掛けられる。
「……で? 拙者を残した理由は何でござるか? 何かあるのでござろう?」
「ありゃりゃ、気付いてた?」
「そりゃあ気付くでござるよ。二人をわざわざ少し離したのも、二人に聞かれたくない会話するから、そう、例えば――転生者同士の会話、とか」
機市は背を壁に預け、腕組みをしながらそう言った。
そう、機市は俺と同じ転生者なのだ。
元々機市のキャラはこの漫画の敵として作られたキャラ。
俺と同様に元敵キャラなのである。
よく見る小説なら、転生者同士はそれぞれの主張が食い違い、争い合うのが定石だと思うのだが、俺達は違った。
目的がたまたま合致し、その目的達成のため協力関係にある。
だから、気の置ける相棒とも言える間柄なのだ。
俺は肩をすくめる。
「一部正解だよ機市――俺らの他に転生者がいるかもしれないんだ」
そう言うと、機市は目を見開く。
「マジでござるか? というか何故今更になって現れたのでござる?」
俺は首を横に振る。
「分からん、それにこれはあくまで可能性の段階だ。昨日主人公達の仲を引き裂こうとする事件が発生してな。明らかに故意による犯行、しかもこうすればヒロインの性格上確実に動くって絶対の確証を持ってる奴だ」
俺は大まかなことだけ話し詳細は伏せ、簡潔に昨日の出来事を話した。
機市は顎に手を当て、考え込む。
「確かにそれが出来るのはあの漫画を知ってる者、つまり転生者ってわけでござるか」
「もしくはヒロイン達を良く知ることの出来た、近くにいる誰かってことになる。それはつまりハーレムメンバーの誰かの犯行ってことでもある――あんまり考えたくはないがな」
「それは今さらでござろう。拙者と良助氏がこの段階で、警察に捕まってない時点で物語は書き変わってるでござるよ。何かしら物語に不具合があっても不思議はないでござるな」
俺と機市は少し沈黙する。
そして、意を決して俺は口を開いた。
「……だとしても、だ。俺はこの事件を起こした犯人を見つけようと思う。女の子同士の仲を引き裂くなんて、百合への冒涜の何ものでもない――だから一年の頃みたいに協力してくれ機市」
俺は頭を下げると、バカにするわけでもなく、またかというウンザリしたようないつもの反応をされる。
「結局そこに落ち着くのでござるか? 百合好きもここまでくるとすごいでござるな?」
茶化すように機市は言うが、内心穏やかじゃないだろう。
だって、こいつの行動理念にも深く関わることだ。
――あともう一押しか。
俺は機市を指さしながら話を続ける。
「だけど、機市にとってこの事件は無関係ではいられないはずだ」
「何故?」
「だって、もしそいつの狙いがこの作品を滅茶苦茶にすることだとしたら、この漫画世界のキャラクターを確実に狙うはず、それが一番手っ取り早い――だとしたら、お前の推しが絶対に狙われないとは限らないわけだろ? いくら俺達があいつらを――主人公のヒロインレースから外したとはいってもさ?」
推しが狙われるというワードに機市の眉がピクッと動く。
暫し熟考して、頭をポリポリとかきながら決心したようにうなづいた。
「まぁ、確かに見逃せることではないでござるな。あの漫画を愛する者として、大好きな作品を滅茶苦茶にされるのは嫌でござる――何より拙者の推しに手をかける者は皆敵でござるからな。手を出すのなら――社会的に殺す」
機市はキッと親指で首を斬るような動作をする。
物騒だなと俺は肩をすくませた。
「百合漫画で推しカプじゃなくて、単推しって相変わらず意味が分からない。俺には理解出来ない文化だな」
「でも、だからこそ拙者達はそれぞれの目的のために手を取ったのでござろう?」
「――違いない」
俺はニーと笑って拳を突き出す。
「じゃあ、久し振りに悪党コンビの復活だな」
「そのコンビ名何とかならんのでござるか?」
機市はヤレヤレと俺と拳を合わせた。
それにこれは俺達が漫画に出来る精一杯の贖罪だ。
俺達は既にこの作品の一部を改変してしまっている。
だからこそ、これ以上作品を壊すようなことを許容してはいけないし、許されないとしても俺達が生きている限り、贖い続けなければいけない。
――この世界で生きるのなら、ずっと背負っていかねばならない業なのだ。
俺達の話がまとまると不思議そうにこちらを見つめる部長と、楽しそうな桃恵がこちらに戻ってきた。
「二人とも何をしてるのだ? あちらとの話し合いも終わったし、そろそろ取材のカメラを準備して欲しいのだが……」
「聞いちゃ野暮ってやつですよ? 男同士でやる事なんて決まってるじゃないですか?」
「な、な、男同士でヤル!? だ、ダメだぞこんな所で!?」
「「黙れ万年発情期腐女子が」」
「何で我だけぇ!? 我、腐女子じゃないし!!」
俺達は、深いため息を吐きながらカメラを持って行く。
その後は何事もなく取材と写真撮影も無事終了した。
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