クール生徒会長編

第7話 風紀委員って嫌われがちだよね

 あの女装事件から数日後。


 部室棟の廊下を歩く人影、ウェーブがかった髪を揺らし、ピッチリと制服を規定通りに着こなす、風紀委員二年の小守風香がスタスタととある部室までルールを守りながら早歩きで向かう。

 品行方正、まさに風紀委員の鏡のような彼女。

 そんな彼女にも許せないものがあった。


「今日こそは絶対に許さないからな、美学研究部」


 何故か学校からも容認されている謎の部活。

 周囲からの苦情多数、日々遊んでばかりだという報告を受けているのに何故か廃部にならない。

 噂では誰か金持ちの子供がいて、圧力をかけてるのではという噂もある。


「許せない、権力でルールを捻じ曲げるなんて」


 どうやらその存在が彼女にとっては許せないようだ。


 美学研究部の前で小守は立ち止まり、ドアに手をかけ勢い良く開く。


「いるか美学研究部! 今日という今日……は……」


 小守が目にした光景。

 ――それは部室内で上裸になっている良助と機市だった。


「な、なな……!?」


 小守は顔がゆでだこのように真っ赤に染まる。

 良助は声のした方へと振り返った。


「おっ、コモリンじゃん? どったの?」


「ど……」


「ど?」


「どうしたのはこっちのセリフだァァァ!!?」


 部室棟内に絶叫が響く。

 ――いつものように!!


 小守を椅子に座らせて落ち着くまでしばらく待ち、俺と機市はその間に着替えを済ませた。


「ぶ、部室で何をやってるんだお前らは! 風紀の乱れ! 破廉恥! 変態集団!」


 小守は俺と機市から目線をそらしながら叫ぶ。

 俺は、筋違いの罵詈雑言に呆れてものも言えない。


「部活前が体育だったからこっちで着替えてただけだっての、それにノックもせずに入るコモリンのほうが問題だと思うけど?」


「そうだそうだ~でござる。このムッツリ風紀委員」


「コモリン言うな!? 見たくて見たわけじゃない! それに常識をあんた達に問われる筋合いはないわ!」


 小守ことコモリンは俺達のクラスメイト。

 一年の頃から、何かと俺達に絡んでくるからあだ名をつけるくらいには仲良くなったのだ(一方的)


 俺は机に頬杖をつきながら、ジト目でコモリンを見る。


「で? 誰に用事なんだ? 部長と桃恵は更衣室で着替え中、俺達も今は遊ぶのに忙しい。用事があるなら出直してくれコモリン」


「そうか、なら今回は出直――って!? 今遊ぶって言っただろう!? それなのに出直すとはどういう要件だ!? サラッと追い返そうとするんじゃない!!」


「ちっ、騙されなかったか」


 俺は舌打ちする。


 からかい過ぎたせいで耐性ついてんな。

 つまんねぇ……。


 機市はパソコンを起動させ、こちらに一瞥もせずパソコン前へ座る。


「いつもいつもご苦労なことでござる。拙者達に構ってる程余裕があるとは、風紀委員って暇なのでござるな?」


「暇じゃないわ! これも立派な職務だ!」


「「着替え覗きが?」」


「み・ま・わ・り・が・だッ!!」


 プンプンと俺達におちょくられて腹を立てるコモリン。

 一年の頃から相変わらずいじられキャラだなぁ。

 そこが面白いんだけどさ?


「どうしたのだ良助? 客人か?」


「あらあら? コモリンちゃんじゃないですか?」


「……!? ようやく来たな!!」


 俺達がコモリンで遊――話し込んでいると、着替えを終えた二人が戻って来た。

 コモリンが椅子から立ち上がり、俺達から離れるように一歩引き、ビシッとこちらを指さす。


「今日という今日は観念しろ美学研究部! 風紀員として、問題児達をこのまま野放しにはしないからな!」


「「「「……(キョトン)」」」」


 しばしの沈黙。

 全員が目配せをして、小首を傾げる。


「「「「誰が問題児?」」」」


「あんた達に決まってるでしょうが!!?」


 何を言ってるんだお前らはと言わんばかりの視線をコモリンはこちらへ向けてくる。


 全くもって心外だ。

 俺達が問題児だって?

 何かの冗談だろう?


 俺はヤレヤレとと肩をすくめる。


「おいおい、コモリン?」


「コモリン言うな」


「学校にこんなにも大きく貢献してる俺達美学研究部が問題児なわけないだろ?」


 俺は最初に機市を指さす。


「今や2000万ダウンロードを記録するスマホゲーのプログラムを一人で作り上げた、若き天才プログラマーにして、現役高校生の尾宅機市!」


 次に桃恵を指さす。


「幼少の頃から数多くの芸術コンクールで優勝を総なめにしてきた。容姿も才能にも恵まれ過ぎた神に愛されし天才絵師、絵口桃恵!」


 そして、部長。


「もう説明不要、大人気ライトノベルを数多く世に送り出し、一部界隈のオタク達から可愛すぎる美少女作家と若い世代に絶大な人気を誇る、二藤奈中!」


 最後に自ら指さす。


「全国高校生写真コンクールで優勝経験があり、成績は常に上位の俺!」


 俺は両手を広げる。


「さぁ、どこに落ち度あるって言うんだ!!」


「それ以外がダメだと言ってるんだバカ者ッ!!!」


 コモリンがブチギレながら、機市を指さす。


「授業中のパソコン操作に加え、漫画やゲームなどを学校に関係ない物を持ち込む常習犯!!」


「漫画やゲームは参考資料でござる、それに授業はちゃんと受けてるでござるよ?」


「他の子が真似するでしょうが!!」


 次に桃恵を指さす。


「放課後に水泳部でもない生徒にも関わらず、校舎内で常にスクール水着を着用した徘徊!!」


「肌が空気に触れてないと絵のインスピレーションが湧かないんですよねぇ♪ それに学校指定の水着なんですから問題は――」


「指定された場所で着てないのがダメなんです!!」


 そして、部長。


「学校の制服の改造とカラコンの装着! および怪しい部活の長!!」


「元の制服はダサすぎる。かっこよくない」


「カッコイイとかカッコ悪いの問題じゃない!!!」


 最後に俺を指さした。

 ふっと鼻で笑う。


「おいおい? 俺は校則も破ってないし、授業態度も真面目だろ? そんな俺に落ち度は……」


「存在」


「よし分かったぶっ殺す」


「冗談です。先程ボクをいじった仕返しです」


 ベェとコモリンは舌を出す。

 その仕草がちょっと可愛いと思った。

 好きな女子にやってくれるとなお良し!


 コホンとコモリンは仕切り直す。


「女性職員、女子生徒が二人以上いるとカメラを向ける盗撮犯」


「おい、誰が盗撮犯だコラ? 俺は一年の頃に全校生徒の前で、最初から撮るぞって宣言してるから盗撮ではない。今の一年生にもちゃんと後から許可を取ってる」


「宣言してても、許可取っててもダメです!!」


 何て奴だ……カメラマンの職業全否定しやがったこいつ。

 卑劣な盗撮犯と一緒くたにしないで欲しいものだ。

 俺はただ素晴らしい百合を、写真という記録媒体に収めているだけだというのに、素人はそれが分からんのだ。

 ――全く嘆かわしい。


 ゼェゼェと言い切り、スッキリした顔にコモリン。

 そしてドヤ顔で胸を張る。


「そんな四人が集まってる部活なんて風紀の乱れ以外の何ものでもないです! 即刻廃部手続きすることを要求します!」


「なるほど♪ そうかそうか♪」


 四人共いい笑顔でこう言ってやった。


「「「「だが断る」」」」


「ムガァァァ!!!」


 地団駄を踏むコモリン。

 いつもなら、ここで覚えてろよ~と三下セリフを吐くのだが、今日は違った。


「いつものボクと思わないことね!」


 ビシッと俺を指さしたのだ。


「あなたに生徒会役員の下着姿を撮影した容疑がかかってる! 大人しく来てもらうわよ!」


「全く、だから撮っても許可は……今なんて?」


「着替えの盗撮! 生徒会役員達の!」


「………………はぁ!!?」


 何度聞き返しても、俺が着替えを盗撮したと聞こえる。

 一応言っておくが、俺の撮影は絶対にR指定が絶対にかからない健全なものだけだ。

 だから下着が映り込む、まして着替えをしている写真など撮るわけがない。


 つまり、これって……誰かにはめられたってことか!?


 俺はいわれのない罪で人生終了しかけていた。

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