第8話 生徒会って権力ありがち

 私立セイント学園における生徒会。

 まぁ、漫画や小説あるあるだとは思うが、この学園において絶対的な権力を持っている。


 理由はあるが、現生徒会長がとある日本企業の財閥令嬢。

 そして学園にも多額の寄付をしている。

 つまり、金出してもらってる企業の娘だから誰も口出し出来ませんっていうこと。


 生徒会に立てつくということは学園での立場が無くなると同義だ。


 そんな生徒会に盗撮仕掛ける何てバカなことする奴なんて普通はいないだろう? 

 でも、そんな奴が現実でいたんだよ。

 ――俺ではないけどなッ!!


 生徒会室にて、俺は生徒会役員全員の鋭い視線を浴びていた。

 現在、俺は盗撮の疑いで生徒会室に呼ばれている。

 一応付き添いとしてコモリンも来てくれた。


 俺は恐る恐る挙手する。


「あのう、一応言っておきたいのですが、俺は無実です」


「やった人は皆そういいます」


「本当にやってないんですって!?」


 目の前にいる黒髪おさげの美少女はわき髪をかきあげて、そう冷たく言い放つ。

 何でよりにもよって、俺がこのヒロインと顔を合わなきゃならんのだ。


 この人はリリーズコンツェルトにおけるヒロインの一人、一年生の時点で生徒会長を務めあげ、今もセイント学園のトップに君臨し続ける絶対王者【天上院立夏】


 雲の上の存在だから関わることもなかったってのに、何で今更になって関わってくるんだ。

 百合は百合らしく百合百合してればいいんだ、いやむしろしててくださいお願いします!(熱弁)


 俺はそんな感情を表に出さないように必死に顔を取り繕う。


「証拠は……というか、何故俺がやったとお思いで?」


「普段女子生徒を撮影していて、かつ素行不良の悪い生徒だということ――それ以上の理由て必要かしら?」


「あぁ……疑われるのも当然ですね」


 俺が素直に認めるとコモリンは憤慨する。


「おい、ボクの時と態度が全然違うじゃないか!」


「ちょっと今大事な話してるからコモリンは黙ってて」


「誰がコモリンだ!?」


 コマリンを無視して、話を続ける。


「でも、流石に疑いだけじゃ……俺が持ってる写真とカメラを先生達に渡すとかはダメですか?」


 俺がそう言うと会長は両肘をテーブルにつける。


「生憎、この事は生徒会役員と君達しか知らない。内容が内容だけに、なるべく知られたくないというのが本音でね? 先生にも公にしたくないんだ」


「なるほど……じゃあカメラとかデータを生徒会に渡せばいいですか? もしくは犯人を捜して来ましょうか?」


「いや、カメラとデータの提供だけで十分だ。犯人捜しはこちらでやろう――それとはまた別件で君に用事でね? 盗撮疑惑はあくまで事情聴取というか、話を聞きたかっただけなんだよ。話を聞いて君が犯人じゃないと確信出来た――わざわざ犯人からデータの提供を提案するとも思えないしね?」


「えっ……絶対にやってますよこいつ」


 真顔でコモリンはそう言い放つ。


 コモリン……てめぇ後で覚えとけよ。


 俺は取り繕うようにニコリと笑う。


「なるほど、では別件とは?」


「新入生やこれからこの学園に入る子達に向けて、学校のPRが出来る物を作ろうと思ってね? そこで才能あふれる君達の部活を思い出しだして打診させてもらったんだ。ぜひ、協力してくれると助かる」


 あぁ……なるほどそういうことか。

 ――それが目的ってわけね。


 俺は頬をかきながら困ったように笑う演技をする。


「俺は部長ではないので、自分の一存では何とも……俺としては協力したいのですけどね」


 俺が協力したいと言ったことに心底驚いた様子のコマリンを無視して続ける。


「では、生徒会から正式な依頼として出させてもらうよ」


「それなら多分何とか出来ると思います。一応俺からも声はかけさせて貰いますよ。でも、皆忙しいので、今回限りということで何とか交渉してみます」


「助かる、後で期日など細かい締切や要項をまとめて書類として渡そう――話は以上だ」


 そう言うと会長は机の書類に視線を戻し、事務仕事を始める。


 俺は深々と一礼する。


「では失礼しました♪ ――おい、小守行くぞ」


「えっ? あ、うん?」


 俺と小守は足早と生徒会室を去る。


 帰りの廊下で不思議そうにこちらを見つめる小守。


「……何だよ」


「いや、何であの依頼を引き受けたんだ? いつもならめんどくせぇ~とか、なんで俺が? って言うのにどういう風の吹き回しだ?」


「……お前、まさか気付いてなかったのか?」


「え?」


 間抜け面で首を傾げるコモリン。

 俺は、はぁ……と深いため息をついてしかたなくこの分かってないドアホのために説明する。


「質問一、何で生徒会長は最初に盗撮犯の話をした?」


「それは、あんたが疑れてたから確認を――」


「不正解だ」


 コモリンの回答に聞いてられず、途中でアウト判定を出す。


「正解は、お前をいつでもこのネタで脅せるってアピールのためだよ」


「えっ!?」


 目を点にするコモリン。

 俺は腕組みしながら話を続ける。


「かなり大事なのに先生に言わないことといい、犯人を捜さないことといい、不自然にもほどある。明らかに嘘に決まってんだろ?」


 生徒会長が白と言えば黒も白ってことになる。

 もしも生徒会長が俺が犯人だって言ったら、そういうことになるんだろうさ。

 俺がいくら無実だって言っても、俺と生徒会長ならどっちの言う事を信じるかなんて、火を見るよりも明らかだ。


 コモリンは納得したよ頷く。


「た、確かに……だけど何故わざわざ脅しを?」


 俺が指を二本立てる。


「質問二、俺を脅して何をやらせたかったのでしょう? ヒント、その後何を頼まれた?」


「……あっ、学校のPR!」


「正解、俺達をタダでこき使うためにな」


 コモリンが考え込むように手を顎に当てる。


「だけど、あんたを脅すだけじゃ部全体は動かないんじゃない?」


 俺は肩をすくめる。


「だろうな、むしろこれがただの校則違反だけだったのなら、あいつらは俺を差し出してこいつがやったことです! 自分達は知りません! ――って言うぞ? というか、俺だったら絶対そうする」


「あんた達の関係って……いや、深くは聞かないでおく、でも、そしたら本当にあんたを脅す意味がそれこそなくない?」


「それが違うんだよなぁ。」


 指をもう一本立てる。


「質問三、何故わざわざ校則破りどころか犯罪である盗撮を選んだのか? ヒント、犯罪者を出した部活動ってどうなる?」


「部活動の長期間の停止、もしくは廃部に……あっ」


「生徒会長のターゲットはそもそも俺じゃなく美学研究部そのものだ。PRが良い物が出来れば儲けもの、もし拒否されても素行不良が多い生徒が多く所属する部活を排除できる。どっちに転んでも美味しいってわけだ」


「なるほど……じゃあわたしとしてはあなたが働かないことを応援すればいいのね! 頑張って働かないでくれ百花!」


「お前、張っ倒されたいのか?」


 コモリンはグッとガッツポーズする。

 俺はこの後のことを考えると面倒くさくて、頭をかく。


「――それに多分だがお前もタダじゃすまないぞ?」


「ふぇ!?」


 気の抜けたような悲鳴をあげるコモリン。


「な、何でボクまで!?」


「お前なぁ……この話をお前が知ってる時点で何かしら巻き込まれてると思わないのか? そうだな、俺だったら口封じのために盗撮を指示したのは俺だが、小守は俺と共犯ってことにしてまとめて退学にする」


「何故に!?」


 心底驚いたような声を上げるコモリン。

 無視して、話を続ける。


「俺と同じで生徒会長って腹黒っぽかったし、後ろめたいこととか多かったんじゃないか? そこに風紀委員の鏡みたいなお前は目ざわり以外の何ものでもないだろ」


「そ、そんなぁ……ボクは真面目に風紀委員をこなしていただけなのにぃ……」


「まぁ、俺らが真面目にやっときゃお前も咎められないだろうさ。ドンマイ」


 ガクッと廊下で膝をつくコモリン。

 俺は構わず、廊下を進む。


「……どこの世界でも、権力持った奴が得して、真面目でいい奴が損をするんだな――全くもって胸糞悪い」


 コモリンには聞こえない声量で俺はそう愚痴った。

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