第18話 風紀委員達の恋を応援するにはどうすればいいだろうか?

 風紀委員室の前でドキドキとコモリンは緊張した面持ちで呼吸を整える。


「ほ、報告だけ……意識しないで、ほうきょ――」


「いいからさっさと行け」


「ちょっ!?」


 扉を開けて、コモリンを中へと押し込む。

 そして扉を閉め、片目だけ見える状態で見守る。

 こちらをコモリンが睨むから、扉の間から指をグッと立てた。


「あとで覚えてろよぉ……」


「どうした小守二年生、何かあったか?」


「い、いえ! 問題はありません委員長!」


 扉越しに奥を見ると、ショートヘアーの能面のような無表情をした少女が執務を行っていた。


 なるほど、あれがコモリンの思い人か。

 生徒会長様とはまた違う無口なクール系少女だな。


 これで本編に出てないなんて信じられないレベルだ。

 モブにしておくのが超もったいない。


 それにしても、元気な活発系後輩のコモリンと、無口のクール委員長か……実にいいじゃないか(ニチャア)


「ひっ!?」


「……? どうかしたのか?」


「い、いえちょっと悪寒が……」


 キッとこちらを睨まれたので、頬を引き締める。

 あいつ、気配察知でもあるのかよ、恐るべしコモリン。


 少しアタフタしたコモリンであったが、さっきのやり取りで冷静さを取り戻し、最後には覚悟を決めたように姿勢を正す。


「委員長、報告があります」


「……うむ、聞かせてもらおう」


 コモリンは賭博場と六天王の一人を沈静化させたという報告を事細かに話した。


 報告した後、しばしの沈黙。

 そして委員長が口を開く。


「そうか、ご苦労であった。遅くまですまないな」


「い、いえ! これくらいは!」


「疲れただろう? 今日は帰ってもらって構わないぞ、お疲れ様」


「えっ、あっ、はい」


 委員長は淡々といつものことのように声をかける。

 コモリンは勢いで返事をしてしまって会話が続かない。


 ここまでやらせておいてこれだけ?

 労いの言葉一つで終わり?


 賭博場潰す根回しに結構手間かけて?

 これから事後処理に追われるってのに?


「ざっけんな!」


 扉の先で見ていた俺は扉を勢いよく開け放つ。

 二人は俺の登場に目を見開く。


「ちょっ!? 百花、何で入って――」


「そんなことはど~だっていい!」


 俺はガンッと執務中の机を叩く。

 無表情の委員長が俺を見上げる。


「頑張った後輩に労いの言葉一つだけっすか先輩? もうちょっと何かあるんじゃないんですかね? もう少し言葉尽くしてもいいんじゃないっすか? その口はお飾りかよ?」


 委員長はピクッと眉を動かす。


「いきなり入ってくるとは不躾だな百花二年生。それにこれは風紀委員同士の問題だ。わたしに不満があるなら直接小守二年生から聞く、部外者は黙っていてもらおうか?」


 表情は変わらない、だが瞳に怒りのような感情が見える。


 感情がねぇわけじゃねぇな、表に出さないタイプか。

 ――ならいくらでもやりようはあるな。


 俺は頭をフル回転させ、嘲るように笑う。


「おいおい、コモリン。お前の上司様は礼の一つも出来ねぇようだな? こんな、能面女のどこがいいんだ?」


 挑発に乗ったコモリンは顔を赤くしてこちらを睨みつける。


「委員長を馬鹿にするな! いつも風紀のためにずっと身を粉にして動いてくれてるすごい人なんだ! ボクも一年の頃に助けられて、その生き方に憧れたんだよ! 何も知らないくせに偉そうなこと言うな!!」


 フゥ……フゥと喋りすぎで息を荒くするコモリン。


 俺は顎に手を当て、クスクスと笑う。


「おやおや、随分と慕われてるみたいだな?」


「……」


 相変わらず無表情を崩さない委員長。

 これでも顔には出ず……か。


 コモリンの本音は引き出せたし、後は……。


「じゃあ、そんな素晴らしい委員長様にお願いだ♪」


「……何だ」


 俺は両手を合わせる。


「コモリンをうちの部活にくれよ?」


「なっ!?」


「……」


 コモリンは目を見開き、委員長の瞳はさらに鋭くなる。

 周りが唖然とする中、俺は構わず話し続けた。


「意外と俺はコモリン気に入ってるんだ。こんなに確たる美学を持って生きてる奴はそういないしな♪ 安心しろよ? あんた何かよりかは俺達の方がこいつを評価してる。それにあんたが言葉を尽くすかいもない程に、あんたにとってはコモリン何てどうだっていい存在ってことだろ?」


 俺が言い終わると、プルプルとコモリンは震えだす。


「ボクは……委員長にとって……どうだっていい?」


 好きな人にとって自分が認識されないという言葉に、今にも泣き出しそうなコモリンを無視して喋り続ける。


「まぁ、そっか♪ 風紀委員としては、いつまで経っても俺達を取り締まることすら出来ない無能――」


 パァン!!!


 痛烈な音が、風紀委員室に響く。


 ヒリヒリと頬が痛む。

 視線を向けると、能面だった表情が怒りに震え、感情を露わにした委員長が平手で俺の頬を打っていた。


 俺の胸倉を掴み、委員長は自分の側に引き寄せる。


「彼女は堅物だの能面女だの言われたわたしに笑顔で接してくれた! 風紀委員としても一生懸命頑張ってくれた優しい子だ!! これ以上、わたしの大事な後輩を馬鹿にしてみろ!! お前を絶対に許さないからな!!」


 コモリンも目を点にして驚く。


 まぁそりゃ驚くよな。

 こんな感情的な委員長様を見るのは初めてなんだからさ。


 早乙女先輩達に委員長の情報を聞いておいて正解だったぜ、事前に聞かされた人物像とかなり齟齬があるなとはずっと思ってたが、やっぱりコモリンの前では感情を出さないクールな先輩を演じてたわけだ。


 好きな人の前じゃ、カッコイイ先輩でいたいもんな?


 最初から相思相愛かよ(最高)


 本音をようやく引き出せたことで、俺はほくそ笑んだ。


「何だ、口に出せるじゃんか?」


「あっ……」


 委員長はバッと俺から手を放す。


「思いは生きてるうちに口にしねぇとダメだぜ先輩? そうじゃねぇと――死んでも死にきれなくなるからな」


 コモリンは俺の意図に気が付いたのか、ハッと俺を見やる。


「あんた……もしかしてわざと委員長を怒らせて?」


「さぁてね? まぁ、いちおうさっきの言葉は謝っておくわ、すまんコモリン」


「えっ、あっ、うん」


 パッパッと俺は服のしわを伸ばして、扉に手をかける。


「じゃあお互い本音で語り合ったみたいだし、俺はこれでお暇させてもらうぜ――こっから先の会話には、俺はお邪魔だろうからな?」


 ガラガラと扉から俺は外へと出る。


 風紀委員室には二人の女子生徒だけが残った。


 しばしの沈黙の時間。


 そして、意外にも委員長が口を開いた。


「小守二年生――いや小守。わたしは口下手だから一度しか言わないから、よく聞け」


「ひゃ、ひゃい!」


 二人の顔が紅潮する。


 呼吸が早まり、心臓が跳ねた。


 甘い空気が部屋中に充満し、ドキドキとした緊張感の中、意を決して委員長は喋りだす。


「わたしは、いつも一生懸命で笑顔が素敵な小守が好きだ、大好きだ。だから、わたしと……付き合ってくれないだろうか?」


 小守に顔を赤くしながら、手を差し伸べる委員長。

 ビクビクと怯えたように――小守は手を取った。


「こんなボクで良かったら……」


 二人は向かい合って、心底嬉しそうに笑っていたそうな。


 こうして、ここに一組のカップルが誕生した。

 実に喜ばしいことである。


 そんな部屋の前では、一人の百合豚は扉の隙間から撮った写真を眺めて、静かに笑う。


「良かったなコモリン」


 百合豚は部屋の前をクールに去る。

 これ以上の長居は野暮だ。



 □□□



 翌日の美学研究部部室。

 俺は昨日撮った素晴らしい写真をスマホに保存し、今だに見ていた。


 これ見てるだけで昨日の処理作業の疲れが吹っ飛ぶ。


 あぁ……何度見ても、この百合はふつくしいぃ……


「ぐへへ……(ニチャア)」


「……なぁ、桃恵。盟友が超絶キモイんだが何があったんだ?」


 部長が桃恵に声をかけると桃恵は自分の顔に手を当てる。


「昨日、わたしたちがいない間に、いい百合カップルに会ったらしいですよ?」


「つまり、いつも通りの百合豚でござるな」


 三人は俺を呆れたような目で見てくる。


 だが、今は気分がいい(天上天下唯我独尊)!

 あぁ、やっぱ百合は万病に効く特効薬だな(歓喜)!!


「今日こそ観念しなさい美学研究部!」


 俺が悦に浸っていると、ガラガラといつものようにコモリンが現れる。


「ま~た、来やがったなコモリン」


「コモリン言うな! 今日こそは解散をしてもらうからな!」


 プンプンと怒るコモリンを尻目に、スマホをポケットにしまってため息をつく。


 相変わらず、恋人が出来ようとコモリンは変わらない。

 まぁ、コモリンらしいといえばらしいかもな。


「まだまだ退屈はしなさそうだな」


 このいつものやり取りは、まだしばらく続きそうである。

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変人達の美学 原作終了後の百合漫画世界で転生者達はどう生きるべきか? ヒサギツキ(楸月) @hisagituki9

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