第11話 生徒会長をこらしめるにはどうすればいいだろうか?

 カツカツと廊下を優雅に歩く生徒会長。

 いつものように朝早く登校し、生徒会室で業務を行う。

 それがいつものルーティンだった。


 だが、そんな清々しい朝に招かれざる客がいた。


 黒い髪を風になびかせ、生徒会長の椅子を陣取り、傲慢不遜な態度、綺麗な青い瞳をこちらに向ける息を吞むような美少女……いや、違う。


「百花……良助」


「おやおや、やっぱ分かってたか?」


 百合豚こと、百花良助が神様さえ嘲笑う笑みを浮かべていた。


「この姿が俺だって知ってるってことは、やっぱあの写真、長名さん以外のヒロインにもばら撒かれてるってことね。どうりで今まで路傍の石位にしか思ってなかった生徒会長様が、俺を本気で潰しに来るわけだ」


 俺がそう言うと生徒会長はピクッと眉が動く。

 カマかけてみたがなるほど、当たりか。


「なるほ~どねぇ~生徒会長様があの写真ばら巻いたの?」


 ふんと生徒会長は鼻で笑い、自信満々の表情を見せる。


「……あぁ、わたしがやったがそれが?」


「なるほどね~写真ばらまいたのは生徒会長様じゃないわけだ? 噓つくならもっと表情隠した方がいいぜ? あんた噓ド下手かよ(笑)」


 俺が舌を出して嘲ると怒りで顔を真っ赤にする。


 生徒会長さんよぉ~顔に出過ぎだぜ?

 最初の反応と違って、噓つく気満々の表情でそう言われても誰が信じるかってんだ。


 俺は椅子に座ったままクルクルと回る。


「そんなに大好きな人から俺のこと聞くのはいやだった?」


 ブチッと誰かの何かが切れたような感覚がした。


「当たり前だろう! むしろ、嫌じゃないとでも!!」


 珍しく感情を表に出す生徒会長様。

 堅物会長をここまで心頭させる主人公様やばいな。

 流石ハーレム女王だ。


 俺はピタッと椅子を止める。


「まぁそうだよな。百合に入る俺も嫌だから気持ちは分かるぞ」


「共感なんてされたくはないな……それより、何故君がここにいる。警備システムが、いやそもそもこの部屋には鍵がないと入れないはずだ――どうやって入った」


俺はニヤリと笑って人差し指を口に当てる。


「簡単なことだよ。鍵は最初にここへ来た時に机に置いてあったのを拝借してスペアキーを作っておいたから何時でも出入りが可能な状態にしておいた。警備システムの方は俺の相棒が警備システムをハックさせてもらっただけのこと、まぁ流石に俺が直接来るとカメラに映った俺を見て警備が来そうだったから、女装させて貰ったがな? ――この格好は、二度とやりたくないって思ってたんだがな」


 生徒会長様は顔に警戒の色が見え始める。


「……目的は何」


「いやぁ~それなんだけどさ?」


 椅子から立ち上がり、生徒会長に近づく。


「誤解を生徒会長様直々に解いてくれないか? 生徒会長様なら出来るだろう?」


「……何故?」


 俺は指をくるくる回しながら話を続ける。


「ちょっと生徒会長様に従ってられなくなった事情が出来てな? 俺のアドバイス無視したんだからそれくらいしてくれてもいいだろう?」


 俺がそう言うと、プッと生徒会長様は吹き出した。


「君さ? わたしがそれに従うとでも? 面白いジョークだけど、続きは警備の人の前でやってもらえるかな?」


「……もう一度だけ聞くぞ? 俺の誤解を解いて部活を元に戻せ――これは命令だ」


 俺はそういうが生徒会長は踵を返す。


「話にならないな」


 生徒会長様は部屋の外に出ていこうとした瞬間、スカートのポケットから着信が入る。


「出たらどうですか? きっといい知らせですよ♪」


 俺は手の平を上向けて、生徒会長に出るように促す。

 生徒会長様は電話に出る。


「もしも――」


『立夏ッ! お前何をやらかした!!』


「えっ……」


 電話に出た瞬間、遠く離れた俺にも聞こえるほど父親から怒鳴られ、何が起こったのか分からない生徒会長。

 それでも怒髪天の生徒会長父は止まらない。


『海外の大口取引先から契約打ち切りを一方的に言い渡されたッ! この契約を逃せば我社は終わりだッ! 先方からは、理由は娘に聞けと言われたぞッ!! 立夏お前何をしでかしたんだッ!!!』


「えっ……あっ……えっ?」


 思わず電話を切った生徒会長が、スマホを持ったまま放心状態になり、俺へゆっくりと首を向ける。


「君が……これを……」


 手を合わせ、三日月のように口角を上げて笑う。


「俺は何もしてない。ただ、両親の会社がちょ~とお金持ちでさ? セントフルールって会社聞いたことある?」


 その名前を聞いた瞬間、生徒会長は青ざめる。


「世界最大規模の財閥……セントフルール!?」


「そうそう♪ 俺はそこの息子、次期社長候補でさ♪ 俺が言えばこういう事も出来ちゃうわけで、生徒会長様の家が財閥継続か、没落するかどうかは俺の機嫌次第ってわけ♪ ――今の状況把握できたか?」


「そん……な……」


 生徒会長は絶望からか、足から崩れ落ちる。


「そんなの卑怯――」


「お前が今までやってきたことだろ? ――自分がやられたからって逃げるのはなしだぜ?」


「……」


 俺がそう言うと、何も言えなくなり生徒会長は俯いてしまう。


「俺だって親の力を使うのは不本意だよ? でも、学園内の校則っていうルールを逸脱して、そっちがそう言う強行手段で来るのなら、俺も使わざるを得なかっただけなんだ――お分かり?」


「……」


 力なく一点を見つめる生徒会長。

 俺は生徒会長を見下ろす。


「箱庭の王者でいればよかったのに、欲張りすぎたね。さてさて、君が財閥令嬢で居られる条件なんだけどさ?」


 生徒会長の周りを回るように俺はゆっくりと歩く。


「俺からの要求は、張り紙は虚偽だったてことを先生達に言う事、美学研究部の廃部の取り消しと、今後俺達に関わらないこと。後は好きにしなよ、俺は結城さんとの恋は応援してるしさ」


「えっ……」


 返答が意外だったのか、目を見開いてこちらを見る。

 俺は目線を合わせるように足を曲げて姿勢を低くした。


「俺は女の子が女の子を愛する味方、だから出来るのなら結城さんと君との恋は全力で支援したいし、見てみたいんだ。いやむしろ見せてくださいお願いします!(熱弁)」


「で……」


「結城さんに俺は恋愛感情抱いてない――これが聞きたかったんだろ?」


 俺が遮るように言うと、コクリとゆっくりうなづく生徒会長様。


 ニコリと生徒会長に微笑む。


「だから君が結城さんに恋愛感情を抱き続ける限り、俺は君をこれ以上害さないし、関わってこないのなら君に干渉もしない――この意味分かるよね?」


「奏さんに……恋して、君達とは……関わらない」


「よくできました♪」


 俺は立ち上がり、パチパチと拍手する。

 フラフラと壁を使って立ち上がる生徒会長。


「これで勝ったと思う……」


 捨て台詞を吐こうとしたのを自ら口を押さえる。

 よっぽど人を罵倒するのが癖になってるんだろうな。


 だが、俺は許そう。

 百合じゃない些事は許す……百合豚は寛容なのだ。


 俺はゆっくりと生徒会長に近づく。


「別にいいよ? 変に取り繕ってもボロが出るから人まではいつも通りで、その方が自然だしね。それに俺はこの程度では怒らないし、会社に圧とかかけないからさ?」


「……随分と余裕ね。この恨みは絶対忘れない」


 調子が戻って来たのか、生徒会長には余裕が出てきた。

 よしよし、やっぱクールヒロインはこうでないと。


「余裕余裕、百合の蕾からの罵詈雑言何て、そよ風みたいなものだし♪ ――たださ?」


 俺はゆっくりと生徒会長に近づく。

 襲われると思ったのか、身を引く生徒会長


「な、何のつも――ヒッ!?」


 ガンッという壁が震える程の衝撃音で、生徒会長は恐怖する。


 生徒会長が音のした方へと視線を移すとそこには俺の足が置いてあった。

 足から体、俺の顔へと視線を移した瞬間、顔が青ざめる。


「奈中を泣かせてんじゃねぇよ。あいつはこんな俺を心配するお人よしなんだ」


 ガタガタと肩を震わせる生徒会長。

 俺はこのままで話し続ける。


「今度俺の幼馴染泣かせてみろ、これがお前の頭をぶち抜くと思え――分かったか?」


 ブンブンと無言で首を縦に振る生徒会長。

 俺はスッと足と表情を戻す。


「じゃあ、今度ともよろしく頼むぜ? 生徒会長さん」


 そう言って俺は生徒会室を後にした。



 □□□



 後日、俺の疑いは完全に晴れて登校出来るようになり、部活も元通りになった。


 部室で、バサッと改造制服のマントを広げる部長の姿が、


「さぁ、今宵も部活を始めるとしよう!」


「奈中ちゃん元気になって良かったですねぇ。いなくなった部室でずっとワンワン泣いていたの」


「あれだけ部活無くなるのや~と泣きべそかいてたのに現金でござるな」


「守りだがっだ(笑)」


「~~~~!?」


 全員(部長以外)がたまらず吹き出すと、部長が声にならない声を発し、顔がゆでだこみたいに真っ赤に染まる。


「き、貴様りゃ!? そ、そのことは忘れりょッ!?」


「えぇ~かっこいいセリフじゃん? それにここでは俺達らしくいてもいいんだろう? そんなくさいセリフを恥ずかしげもなく言ってのける部長流石っすね(笑)」


「そこに痺れたな~」


「憧れますねぇ~」


 俺達がニヤニヤと笑って言うとガンッと椅子から立ち上がる。


「き・さ・ま・らァァァ!!!」


「「「わぁ~にっげろ~♪」」」


 部長は顔を真っ赤にしたまま、逃げる俺達を追いかけてくる。


 いつものくだらない日常が戻ってきた。


 二人はヒロインに返り咲いてないし、悪役は今だに断罪されていない。


 でも、今は……今だけはこれでいいのかもしれない。

 いつか、無くなる日々だとしても、未来の俺達にとってはこの日々が――今がとても尊いものなのだろうからな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る