細雪の文体とボルヘス
昨夜から降り出した雨は、いつのまにか雪に姿を変えていて、しかもその雪はふっくらとして重たそうな牡丹雪で、その牡丹雪がぼたぼたと、勢いよくいくつも降っていて、もともと外に出るつもりはなかったけれど、今日は外に出られそうにないなと思った。昨夜はそんなに寒くなかったと思うが、雪が降っているのを見ると、部屋の空気も冷え込んでいるのが感じられて、僕は布団をかぶった。そうしていると猫がやってきて、布団をかぶっている僕の上で丸まり、猫も寒さを感じているんだなと思った。何か本を読もうと思い、さっき雪を見たこともあって、僕はまだ上巻までしか読んでいなかった、谷崎潤一郎の「細雪」のことを思い出した。僕のよくない癖なのだが、僕には読みかけの本がたくさんある。例えばダンテの「神曲」は地獄篇までしか読んでいないし、さくらももこのエッセイや精選女性随筆集も読みかけで、宮沢賢治全集の第一巻もまだ読みかけだ。まぁ、短編集や、エッセイ、詩集においては、本の中でも作品ごとに区切ることが出来るから、読みかけになりやすいし、それはそんなに悪いことだとは思わないが、問題は読みかけの長編小説であって、あまりにも放置しすぎると、読んだ部分の内容を忘れてしまっていて、また一から読み直すみたいなことが起きる。「細雪」も上巻を読んでから結構時間が経ってしまっていたので不安だったのだが、中巻を読み始めてみると、意外にも上巻の内容をよく覚えていて、読むのに苦労はしなかった。「細雪」の文章は美しい。それは装飾がつけられた絢爛な美しさではなく、無駄がない、洗練された、端正な美しさである。円熟した作家の筆致として、僕はボルヘスの言葉を思い出していた。
「文筆家の運命というものは奇妙なものだ。バロック、うぬぼれに満ちたバロックから始まり、歳月の経過とともに、星の巡りが幸いすれば、単純性(それ自体は何ものでもない)というよりは、複雑さを隠し持つ素朴な境地に達することができるのだ」
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