短冊をひろう
最後に短冊に願い事を書いたのはいつのことだっただろう。それは小学生の時だったと思うが、もうどんなことを書いたかも覚えていない。七夕の記憶と言えば、給食で七夕の日には七夕ゼリーというものが出ていたのを思い出す。黄色い流れ星の形をしたゼリーが上に乗っかっている、そんなゼリー。味はもう忘れてしまった。実は去年、僕は母が作った七夕ゼリーを食べた。透き通った水色のゼリーの上に、黄色い星型のゼリーが乗っている、まさに星空のようで、美しいゼリーだった。
近所のスーパーには、七夕のコーナーがあって、誰でもそこの笹に願い事を書いて短冊を吊るすことができた。何気なく見ていると、子供の字で書かれたたくさんの短冊が吊るされていた。短冊がたくさん吊るされている笹は、なんだか綺麗で、僕は好きだ。僕は、落ちている短冊を見つけ、その短冊を拾った。その短冊には、いかにも子供らしいよれた字で
「○○くんとりょうおもいになれますように」
と書かれていた。かわいらしいなと、微笑むと同時に、僕は、少し切なくなってしまった。この子供のような、無垢で真っ直ぐで純粋な気持ちが、僕にはもうないような気がしたからだ。何かを失ったと、ふと感じるこの瞬間は、悲しくて、切ない。僕はその落ちていた短冊を吊るした。
帰り道、空を見上げれば、藍色の澄んだ夜空に、夏の大三角形がきらきらと輝いていた。あそこにあるベガは25年前。アルタイルは17年前。デネブは1400年前の姿を、僕たちは見ている。いろんな過去の姿を一度に見渡しているというのは、なんだか不思議で、素敵なことだと僕は思う。
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