蝶になれなかった青虫

 雨の次の日、わずかに濡れた部分が残っている道端に、砂まみれになって、動かなくなった、太くて長い、干からびた、薄紅色のミミズがいた。雨上がりによく見る、哀れなミミズだった。死んだミミズの周りには、うじゃうじゃと蟻が集まり、黒い輪郭を作っていた。死んだ命から、新しい命への、命のやり取り。道端に転がっている虫の死体、そこに集まる蟻の群れを見れば、いつだってひしひしと感じる、命のやり取り。

 すこし道を進めば、黄緑色の死んだ青虫が転がっていて、そこにも蟻が集まっている。干からびたミミズと違って、その青虫は、みずみずしく、新鮮さを感じさせた。青虫は、これから蛹になり、華やかな羽をもった美しい蝶になることもなく、死んでしまい、蟻に運ばれている。蟻は、自分よりも何倍も大きい青虫を数匹で担ぎ、よろけながらも進んでいく。感心しながら眺めていると、青虫の片側を運んでいた蟻が、排水溝に落ち、青虫がぶら下がった状態になった。まだ地上にいる蟻はなんとか持ちこたえ、ぶら下がった青虫を持ち上げようとする。しかし、青虫は排水溝に落ちてゆき、もう片方の蟻たちも排水溝に落ちていった。もう、排水溝に落ちていった蟻たちは帰ってこないだろうと思った。そして、美しい蝶になることもできず、蟻に食べられることもできなかったあの青虫が、なんとも哀れなように感じた。あの青虫は、群青の空の下、美しい花畑で舞うはずだった。そうでなければ、蟻に運ばれ、新しい命へとつながれていくはずだった。あの青虫は、そのどちらも果たせず、暗い排水溝に落ち、静かに、流れされるのを待つだけの存在になった。その光景を眺めて、言葉にできない感情が、胸の底から、そっと湧き上がってきるのを感じた。喉の奥につっかえて、吐き出されることのない、霧のように、つかみどころのない感情。

 顔を上げ、歩き出した。すこし憂鬱だった。

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