僕が僕であるために

 僕は僕だろうか。ここに書かれている言葉は僕の言葉だろうか。僕の思考は僕の思考だろうか。僕は、僕であることを求め続けている。それはなぜか。音を探しているからだ。僕だけが、奏でることのできる、ひとつの音を、求めているからだ。だが、僕の内から出すものは、どこからか借りてきたもののように思えてきて、僕の書く作品も、そこからか借りてきたものの寄せ集めなんじゃないかと、思うようになった。僕は平凡な人間で、普通の人間なんだと思う。ぶっ飛んだ人が羨ましい。僕はあなたになれない。僕は常識の壁を越えられない。僕だけのものが探し出せない。それらしい言葉は、どこかから拾ってきたものなんじゃないか。僕の作品とは、なにか。今までの作品を振り返る。まず、文章は素直だ。飾った書き方はしない。僕は僕を飾れないから、文章も飾れない。描写が多い。描写するのが好きだから。この世界を、見ているものを、匂いを、温度を、音を、言葉でとらえるのが好きだから。僕はなぜ書き始めたのか。僕の気持ちを伝えたかったから。僕はなぜ書き続けているのか。音が欲しいから。なぜ、音が欲しいのか。僕だけのものが欲しいから。なぜ、僕だけのものが欲しいのか。生きたいから。生きていていいと思えるから。音に向かっていれば、僕は、生きているって感じる。この人生を、燃やしてるって感じがする。人生を、何かに注ぎ込んでいると、僕は安心する。生きていると思える。僕は生きたいのだ。ちゃんと生きたいのだ。僕は想像する。音を見つけ出す瞬間を。僕の人生を振り絞って、僕の内臓を抉り出すように、もう、これ以上ないって思える、もう満足だと思える、生きてきて良かったって思える、このために生きていたんだと思える、なにかを、作り出す瞬間を。そんな瞬間があれば、僕はどんなに幸せだろうか。僕の人生は、その瞬間を迎えるためにあり、それまでは、その瞬間のための過程であって、それ以上でも以下でもない。僕は、僕と対話する。僕が僕であるために。僕は、どういう人間だろう。臆病で、卑怯な人間。でも、それが僕だ。どうにもできない、僕という存在。つまらない存在。僕は思った。ちょっと、飛び越えようとしすぎたのかもしれない。音に直接、行こうとしてしまったのかもしてない。まず、一歩を踏み出さなきゃ。その一歩の方向さえ、正しいかどうかなんて、わからないけれど、まず、何かを、やってみなくちゃ。一生を賭けるものだから、慌てなくていい。今踏み出せる一歩を、踏み出すしかない。音を見据え続けて、歩くしかない、ひたすらに、歩くしかない。探している音は、真っ暗な暗闇の中で、青く、蒼く、赤く、黄色く、燃えている、炎であり、星である。

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