第7話 転移4日目 訪問者
「ちょっとお客様を駅まで迎えに行ってきますね。」
蘭丸はそう言い残すと出かけてしまった。さっきから新聞なるものを読んでいたと思ったら、突如出かけるという。
難解である。新聞の他にチラシを見てみる。衣食住、様々な形や値段。天気に運勢。情報量が多く、色も多彩で混乱する。
あ、これから人が来るというのに着替えなくてもいいのだろうか。大事な客で、ワシに会わせたいと言っていた。袴はどこだ。これは玄関にお出迎えしたほうが良いのだろうか?何も言わず出て行った蘭丸が恨めしい。髪も結えないではないか。昨夜蘭丸に切りそろえてもらい、蘭丸の好みか今日はそのままでと、総髪のままだ。うざい。
蘭丸が連れてきた人は、三つ揃いのピンストライプの背広を粋に着こなし、靴の先がとがっており、ステッキを手にしていた壮年の男だった。右足をすこし引きずりながら中に入ると、小粋なパナマ帽子を取り挨拶をした。
「支倉常長と申します。お目に書かれて光栄です。鹿之助様。織田様お気に入りの武将にお会いしとうございました。」
「はじめてお目にかかる。鹿之助です。」
支倉殿は、戦乱の時代に留学したといっても過言ではない。あの時代では、大変だったろうに、飄々と英語もこなし、スペイン語、イタリア語が特に堪能で国際的に通詞をしているという。と説明されても鹿之助には何が何やら。
「今日は特別に、講師をお願いしました。語学の適正をみてもらい、世界という概念を理解して頂きたいのです。」
支倉はパソコンを取り出すと、世界地図を広げた。
「あなたがいるところは、ここです。」
こんな小さな島が日本なのだと言われても、にわかには信じがたい。そして、転移者はなぜか大きな地震の後にやってくるという。なので、今回も来ることは分かっていた模様である。
「鹿之助様、にわかには信じられましょうが、ここは、四百年以上も先の日本なのです。」
「ひとつ聞いてもよろしいか。元の時代に戻ることは出来ようか」
「残念ながら、戻れたという記録は今までございません。こちらで生きていくしかないのです。」
「戦うことしか能のない私のようなものが、何かの役に立てるのだろうか。差し当たり何をしたら。」
「鹿之助様、あなた様は類まれなる戦上手で、大将の器でもあります。人望も厚いし、人を引き付けてやまない性格を持ってらっしゃる。私も初めてお目にかかるのに、もっとあなたが知りたい。」
「買いかぶっておられる。私はそのような、いやいや滅相もない。」
照れておられるのか。この男ぶりを生かすにはどうしたらよいのだろう。武術の師範、ボディビルダー、書道家も似合いそうだ。
「焦ることはありません。じっくりと皆で考えていきましょう。取り合えず今日は語学の適性を見てみたい。」
「鹿之助様は耳が良いですね。適正はあると思われますので、まずは英語から学びましょう。後で弟子が参ります。」
鹿之助は夜の毎2時間を英語にあてることになった。
「いや、お会いできて光栄でした。これから忙しくなるでしょうが、頑張ってください。また、今度お食事でもいたしましょう。」
支倉は、まだまだ話足りないようだったが、
「お時間です。」
次の予定のために秘書に引きずられて行った。
その日の夜、昨日は帰って来なかった信康が、鹿之助の相談に親身になってくれた。義顕は、今日も帰って来ない。
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