第25話 鹿之助、帰郷する

 やっぱり寝ないで待っていた。ひまりは、寝ないで待っていた。

 「ただいま」

 「お帰りなさい」

 お土産にしたテディベアは、ことのほか気に入ってくれたらしく、しばらく鹿之助の出番は無かったくらいだ。それはそれで少しさびしい。

 

 ブレイクした。

 鹿之助は流されるまま、与えられたまま、仕事をこなしていった。

 ファッション雑誌の表紙になり、お決まりのコースに沿って売れていった。

東京コレクションでは、初陣ながらトリを務め、一気にモデルの地位を上り詰めて行く。

 言われるまでもなく、普通に出歩くこともで出来なくなった。専用の運転手とお付きのマネージャー柊が付きっきりでついて歩く。それがどれだけ煩わしいものか、思い知らされている。

 それは、コマーシャル一本、引受けたことによって、如実に現れた。

 シャンプーのコマーシャル。

 鹿之助が、やさしくモデルの髪を洗う。モデルに覆いかぶさって、ぎりぎりまで顔を近づける。

「いいにおいだね。」

 鹿之助がうっとりとにおいをかぐ。モデルと見つめあう。

 30秒にも満たないこのコマーシャルは、日本中の女性を魅了した。

 有名な写真家によるポスター撮り。

 有名ディレクターによる、コマーシャル撮り。

 ファッション誌における、表紙の確定的位置は、鹿之助を頂点へと持っていった。

 人生においてテッペンを取ったような錯覚を覚えてしかるべき位置に置かれている鹿之助は、今、モデルとは別次元の出来事に一杯いっぱいになっていた。

 「映画に出てみないか。」

 有名な監督による映画デビューは、鹿之助には荷が重かった。何からなにまでわからないことだらけだ。

 マネージャーの柊は、優秀な男だったが、マネージャーの仕事は今まで未経験で鹿之助と共に苦労を強いられた。

 自分としては、そこそこに仕事があり、そこそこに収入があれば十分だと思っていた。俳優という道は想定外だった。

 最初に撮ったアクション映画は、セリフが少なくて、激しいアクションがメインだった。早い動きに対応しきれず、アクションアクターの助けを借りて、日々努力をするしかない。久しぶりに激しく体を動かして、楽しいのが予想外だった。


 

  





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