第24話 鹿之助にご褒美を
結局、鹿之助は最初の難関を軽々超えた。圧倒的存在感。圧倒的目力。圧倒的スタイル。特に肩から腰にかけてのライン、胸の厚さと腹筋の付き方は、ギリシャ彫刻にも引けを取らない。
結局3つのデザイナーに気に入られて、初めてパリコレを経験した。また、店の中で行われる、最上級の顧客を集めたパーティーでは、日本を代表とするサムライと紹介され、いろんなポーズを求められた。フランスでこんなに絶賛されるとは嬉しい誤算だった。
酔狂な誰かがどこから見つけたか定かではないが、日本刀を手渡され、抜刀術を見せる羽目になった。俺はそんなに得意ではないのだが。
特にフランス語で受けたオーディションのカール・ラガーフェードは絶賛された。抜群の体幹と舞で鍛えた足腰の切れは、たいそう役に立った。今後しばらくのモデル契約を交わす。
結果、2週間ほどの滞在のはずが、3週間に延びた。スズシロは最初から一週間の予定だったので、あとの2週間の間、アパルトマンに柊と二人暮らしだった。
鹿之助にとって、唯一の楽しみが、朝5時にネットでつなげてひまりの顔を見ることだ。毎日見ているのに見飽きないし、新たなる発見が必ずある。
「ひまり、最近髪がきれいなのはなんで。俺の気のせい?」
「きれい?ふふ。小町ちゃんにドライヤーの使いかた習ってる。ヘアアイロン買ってもらった。」
「へああいろんー?」
「ん。まっすぐになるの。あとね、つやつやオイル、してる。」
なんにせよ、つやつやの真っ黒な黒髪は、いろんな色の髪や目に囲まれているなかで、なんか安心する。ひまりがうれしげにしているのがかわゆくてたまらない。
他にも、髪の洗い方、俺のシャンプーで、がしがし洗っていたが、それでは髪が絡まって痛むでしょうと、こまちちゃんに言われたらしい。丁寧に髪を洗うコツやトリートメントする仕方を習ったらしい。顔の手入れに関してもひと通りレクチャーを受けたらしく、洗面台の広いスペースがひまりの手入れ用品でぎっつぎつになっているところを、今朝、写してもらった。
こまちちゃん、ありがとう。ひまりも喜んでいるが、ひまりがかわいくなって俺もうれしい。
「ひまり、明日帰る。忙しいから、明日のラインは無しな。」
「わかった。何時に帰る?」
「遅くなるから寝てろよ。」
「はーい」
あれは絶対寝ないで待ってるという顔だ。最近、うそをつくのがうまくなった。うそというのではないかもしれない。本人は無意識にしていることなのだ。追及するわけにはいかない。叱るわけにもいかない。この甘い気持ちを、俺はどうしたいのだろう。
うれしいが、もし寝ないで待ってたら、
「こんなに遅くまで何してるんだ。寝てろって言っただろう」
ぐらいは言ってもいいのではないか。甘々の顔に言われても説得力はないだろうが。
楽しい妄想をしつつ、最後の仕事に向かう準備をする。今日は、ラフ撮りだ。全ショップ向けの新作品を予約販売のために小雑誌を作る撮影。カメラを向けられると緊張していたが、最近はカメラのフラッシュにもなれた。スポットライトを浴びる快感は、くせになる。気持ちが上がる。
ファッションの良しあしがわからないまでも、好きなデザインの服を着るとき、ちょっとテンションが上がる。できれば好きなデザイナーさんだけの仕事を引き受けたい。小夜子は良い選択眼を持っている。向こうも俺を気に入ってくれたみたいだが、俺も気にいった。
鹿之助は予約販売の撮影中に、モデルの役得で欲しい服の予約をした。着物は着物で良さがあるが、慣れてしまうと服は着やすいし扱いやすい。
義顕が無類の服好きで、サイズの合うものを惜しげもなくもらってしまったが、少し(どころではないか)派手に感じる。大胆な柄や色使いのシャツやジャケットは、皆に褒めちぎられるが、自分としては、もっと落ち着いたものが着たい。
コートは着やすそうだし、軽そうだしどの角度から見てもかっこいい。無難な紺と、キャメル。
あまり縁のなかったスーツやジャケットとやらをオーダーメードした。義顕や、信康にも作ってもらったものがあるが、自分好みのものを作りたい欲が出てきた。カフスがきれいに見える長さで袖丈を決める。ネクタイやシャツは面倒になり適当におまかせだ。キャメルの長いコートに絶対合うはず。自分へのご褒美を少しぐらい買ってもバチは当たるまい。まだ、甲冑と刀を売ってしまった金が残っているはず。
疲れた。早くベッドに横になりたい。明日帰るというのにパッキングも終わってないし、ひまりに留守番のご褒美も買ってやりたい。
夜遅くまでやっている本屋に入る。自分の勉強用の本を少し、ひまりには挿絵のきれいな物語の本を。フランス語で書いてあるががんばって訳してやろう。
フランスのモデル仲間が教えてくれた、10歳の女の子が好きそうなぬいぐるみ。テディベアのぬいぐるみは、俺の代わりにひまりの寝友になってくれるだろうか。
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