第2話 転移局は突然に

 大勢の目にさらされながら、兵藤とやらに導かれるまま駅長室を出て,

人の間を縫って歩いている。駅通路を通り、だんだんと人が少なくなっていく。くいっと右に曲がった。そこからの石造りの通路は天井が丸く低い。人一人とすれ違うのもままならないほど狭いし暗い。右手に唐突に表れた銀色の重い扉が兵藤の首から下がっていたカードキーでガコンと開いた。

 ガラス張りのオフィスは広々としており、地下でありながら煌々としており1メートル四方の柱が林立している。20人ほどの人がまばらに立ち動いている。

「こちらへどうぞ」

パーテーションで区切られた一角には、若い男が立っていた。

「部下の森です。これからあなたを助ける者です。小姓だと思って下さって結構ですが、同意がない場合、手は付けないで頂きたい。うぶなので。」

「森と申します。よろしくお願いいたします。では、説明の前にその重い甲冑をぬいでこちらにお着換えください。大きさは大丈夫でしょうか。なじんだものが良いかと浴衣をご用意いたしました。お手伝いいたします」

 鹿之助は、兜を脱ぐと仁王立ちになった。森がわきまえているらしく、一つ一つ丁寧に脱がせてゆく。

「しかし、鹿之助様は、落ち着いてらっしゃいますね。こういった転移をなさったかたは、大抵質問攻めになさるのですが」

「うむ、騒いでもどうもならんのではないか?状況がつかめぬうちは下手に動かないに越したことはない。良きに計らえ」

 傷がつかないよう、綿張りの葛籠に、甲冑、籠手、脛あて、などを詰めてゆく。小袖を脱がせ、下帯だけになると、後ろに回り、左側から浴衣に袖を通す。森は、角帯を締めるとため息をついた。深呼吸を繰り返すが、動悸が止まらない。鹿之助は身の丈六尺を超え、鍛え抜かれた体は鋼のようである。あの時代の人にしては、足が長く、すねの長さが異様に長い。外側広筋の張りは秀逸で、引き締まった尻はきゅっと上向きである。胸は分厚く、腕も長い。

 ちょっとだけさわりたい。


「森、説明を任せていいだろうか。室長にひとまず報告をしてくる。」

 はっと我に返ると、兵藤が席を外した。森は、浴衣の襟を直しながら、手の甲でそっと触れた。鹿之助がその手を引きはがす。慣れたしぐさで振り払うと、上から睨んでくる。長いまつげを伏せた半眼も色っぽい。

「え、こちらにお掛けください。まず、現状説明をいたします。長くなりますのでコーヒーでもいかがですか?」


「というわけで、戦乱の世は終わりました。刀も甲冑ももはや必要ではありません。骨董品扱いです。こちらで処分してもよろしいでしょうか?代わりに当座の生活費としていくばくかのものを用意しております。」

「刀が腰にないと落ち着かないのだが」

「時期、慣れるでしょう。刀を持ち歩くと銃刀法違反となり、警察に捕まってしまいます。」

「うむ」

「では、そういうことに。次に、これから3か月間こちらの生活に慣れるよう、学んで頂きます。ここは、そういう施設です。近年、大地震の後に必ず転移者が現れまして、ここ十数年の間に20人を超えます。実は私も転移者です。鹿之助様よりは3年ほど前にこちらに参りました。以前は織田様にお使いしておりました。その腕を買われ、こちらで働かせて頂いております。」

 ーなにこれコーヒー にっがっぁー 

「お砂糖をお入れしましょうか。」

「うむ」

 ー砂糖って病気の時しかもらえないやつでは。葛でといて、うまいやつ。うむ、こうすると意外と飲めなくもない。ー

「これから様々なことに驚かれると思いますが、この森がお手伝いいたしますので、ご心配いりません。」

「うむ、かたじけない。よろしく頼む」

 

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