第10話 空港での出来事

 空港を出ようとした3人は、一人の女に呼び止められた。その女があまりにスタイルが良かったものだから、チャンスを見過ごすことのできない3人は、うっかり話を聞く羽目になった。とはいっても、ここでは目立つので駐車場に移動する。

「私は小夜子。こういうものです。」

と、名刺を渡される。本当かどうかは今、定かでないが世界規模のモデルエージェントらしい。自分も最近までモデルをしていたという。

「あなたの立ち姿がとても美しくて、後ろ姿についムラっと、いえ、ぐらッときました。」

と言われているのは、鹿之助である。確かに背中には定評があって、小町ちゃんたちにも、

「はあっ。充電。」

と抱きつかれ、

「ちょっと休憩。」

と背中に寄りかかられ、

「その色気吸いたい。」

と飛びついて、首の後ろを吸われたりする。

 そのたびに鹿之助は、じっと耐える。無表情のまま煩悩と戦う羽目になっている。 いやではないが平常心を戻すことにしばし時間がかかるのが難点だ。

「モデルになる気はありませんか。お仕事は何をなさっているんですか。」

「今、仕事はしていない。」

「では、ぜひともお考え下さい。お忙しいところお時間を取っていただき、ありがとうございました。」

 小夜子は名刺を渡すと車を出た。

「では、よいお返事、お待ちしてます。」


車を走らせながら、鹿之助は、氏真、義顕に聞いてみた。

「モデルってなんだ?」

氏真は、

「あれだろ。新作の服を着て、みんなに見せるやつ。」

義顕は、

「簡単に言うなあ。結構大変な仕事らしいぞ。ただ服を着てランウエイを歩くだけだと思わないほうがいいぜ。まず心配なのは妬みやっかみが激しい世界、心身の摩耗が付きものだということ。鹿之助は大丈夫か。メンタル強そう。オーディションに次ぐオーディション、モデル同士の蹴落とし合戦。メイクに気に入られないとやってもらえないだとか。カメラマンにはヤリマンが多いって聞くし、あ、鹿之助はどっちもいけるほうだっけ?」

「そういうことを、さらっと聞くか?タチかネコかというんだったらタチ。男と女どっちかというんだったら、一緒に寝てて心地いいのは女かな。あったかいし。」

「けっ。どっちもいけるんだ。」

「しばらく一人寝だったから、今人肌が恋しい。初陣依頼、起きた時に隣に誰もいないということがなかったからな。」

「おい、話がずれてる。物は試しでやってみるか?モデル。うまくいけば世界中歩けるし、見聞を広げられるし。ありだと思うぜ。」

「何事も挑戦してみたら。みんな応援してくれると思うぜ。」

「ん。考えてみる。」

「まずは、準備だな。さっきから言おうと思っていたんだけど、鹿之助の歩き方、直すの大変そうだ。ウオーキングの先生誰か知ってる?」 と、氏真。

「知り合いのキャビンアテンダントに、教育担当がいたが、ウオーキングの指導もするらしいから聞いてみるか。」 と、義顕。

「なんか面白くなってきたんじゃない?俺、日本にこの時期戻ってきて正解かも。人一人の人生決まる瞬間に立ち会えるなんてそうそうないものね。」

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