第16話 小説家たちの期限

 現在では有名な小説投稿サイトの奇妙な偽サイトが作られていた事件。

 このサイトにまつわる都市伝説そのものは、某有名小説投稿サイト名からとって「小説家になれない」とも呼ばれてもいる。ただし、「なれない」という言葉には語弊があるためここでのタイトルには採用していない。


 小説投稿サイトの無断転載は個人レベルでも稀にある事だ。

 件の偽サイトも、おおもとの小説投稿サイトの形式とほぼ同じ形で作られていた。サイトの様式もほぼ同じで、そのままそっくりコピーしたものと思われる。

 検索機能やお気に入り機能などもオリジナルとほぼ同じように使えるため、内部様式もそのままコピーしたものと思われる。その一方でオリジナルサイトで見られるコンテストの画像や広告などは、画像は表示されるもののクリックしても該当ページに飛ぶことができない。書籍化一覧なども画像は表示されるが該当ページには飛ぶことができなくなっている。

 偽サイトとはいえ、投稿されている小説の内容はすべて読むことができる。書き換えなどはされておらず、投稿内容はオリジナルと同一。誤字などもそのまま転載されている。ただし元サイトであらすじの変更や誤字脱字の修正、内容の変更などがあった場合は反映されていない。おそらくオリジナルサイトで最初に投稿されたものだけを、なんらかのシステムを利用して転用していたと思われる。


 ではサイトの異常性は何かといえば、投稿されている小説の投稿日時だ。

 本来であれば投稿日時は作品ごと、もっといえば話数ごとでも違うが、このサイトではすべて本来の投稿日時より未来の日付が表示されている。これは作品単位ではなく作者単位で違っており、ひとりの作者の作品すべてが同じ日付になっている。

 そしてそれは、作者があらゆる意味で創作活動を終了する日時と一致している。


 以下、SNSなどで日時が一致した例。

 ・進学・就職など私生活の変化による創作活動の終了を宣言。

 ・評価されないなどの理由で創作活動の終了を宣言。

 ・たまたまその一作だけ小説を書いてみたなど、それ以上の創作活動が無い。

 ・家族によって逝去などが宣言。


 このような事情で創作活動を終了・あるいは継続できなくなった日時が表示されている日時と一致している。

 なお、冒頭で『「なれない」という言葉に語弊がある』と書いたのは、オリジナルサイトにて既にプロ作家として活動している投稿者も存在するからである。サイトの存在が明るみになったのは2015年だが、その時点で作家として活動している投稿者は存在した。この「作家」とは特定作品の書籍化・コミカライズ化に加え、その後の兼業・専業を問わない。当然、彼らの投稿していた小説にも未来の(あるいは現時点では過去の)日時が表示されていたという。

 ゆえに揶揄されていたような「ならない」「なれない」というよりは、「小説家をやめた」または「小説家としての寿命」が予言されていたと言えよう。


 現在、この偽サイトは削除されており読むことができない。

 ただし、現在存在する他の小説投稿サイトの偽サイトの中で、同じような現象が起きていないとは言い切れない。

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