第14話 達磨盛製作所
「達磨盛製作所」は町中、特に下町や住宅街に囲まれる昔ながらの工場地帯に現れる存在しない製作所。
ことの発端は2002年にネット掲示板にて投稿された「製作所ってどんな仕事すんの?」というスレッド。スレ主の住んでいる近くでよく見る工場に就職したいけれども仕事は楽かどうかと尋ねる趣旨のスレッドだった。最初のうちは、製作所の規模やどんなものを作っているかなど、ネット掲示板にしては比較的おだやかなやりとりが続いていた。しかし、スレ主と掲示板の住人たちとの間で次第に齟齬が生じていく。
スレ主によると、「達磨盛製作所」は近所にある工場。
工場といっても下町の住宅街に囲まれた場所にある、古い昔ながらのものだという。そのためスレ主は昔からある地元密着型の製作所だと思っていたのだが、あるとき旅行先でも同じような作りの工場があることに気がついた。名前も同じであったため、もしかして自分が思っている以上に大きな会社なのではないかと疑いだした。
また、別の旅行先でたまたま住宅街に近いところを歩いたときも発見したため、その疑念は大きくなっていく。興味はあったが、なんの製作所なのかもわからなかった。時代はまだネットが普及してきたとはいえ、自宅にPCがあるような限られた人間しかネットができなかった上、ホームページを作るような会社も限られていた。そのためどんな仕事をするのかいまいちわからなかったのだという。
同じく工務店や製作所勤務だというスレッドの住人からいろいろと教えてもらっていたが、住人たちも「達磨盛製作所」など聞いたことがなかった。似たような名前のものがいくつかあるのではないかと言われたが、スレ主は確かに同じ名前だったと主張した。
工場の作りや入り口などもほぼ同じで、働いている人々の作業服もほぼ同じなので、かなりの大きな会社ではないかと考えていた。だがその証言には様々な矛盾が生じ、ついには釣り宣言をするように促す者まで出始めた。
そのため、スレ主は「せっかくだし、地元の会社なら面接を受けてみる」と言い出す。スレ主は就職活動の真っ最中であったため、もともと視野に入れていたのだという。スレ主は面接の日が決まったらまた来ると言い、一枚の画像を添付した。
「それに東京にもあったんだから、やっぱり全国区だろ」
そこには何も映っていなかったどころか、廃墟に似た建物が映っていただけだった。
しかしスレ主はそれにも関わらず「就職考えてるって言ったら写真の許可をもらった」「映ってるおっちゃんたちみんないい人だった」などのコメントを残し、最後に「面接の日取りが決まったから行ってくる」と書き残してスレッドを去った。
いったいスレ主にはなにが見えていたのだろう。
面接には行けたのか、そもそも釣りやネタだったのか、そしてスレ主がその後どうなったのかは続報が無いためわかっていない。
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