第17話 マラカスの中身

 スペイン出身のヒスパニック系アメリカ人、ニコラオ・セディージョによる事件。

 ニコラオは地元の酒場などでマラカス奏者、あるいは制作者として知られていた人物。

 事件自体は解決しているものの、いまだ発見されていない重要物があると囁かれている。


 彼の最初の殺人は1984年。ニコラオが26歳の時。

 彼は5歳の時にスペインからアメリカに渡り、15歳の時に家出。そのまま地方の古い町で青年期を過ごしながら、地元の酒場などでマラカス奏者として日銭を稼ぐ日々を送っていた。また、ギャンブル好きで借金を重ねていた彼は、なんとかしようと自作したマラカスを無許可で販売していたという。

 彼には内縁の妻がおり、同じスペイン出身のアバ・タヴァラは、夫の借金と今後の生活への不満、そしてなにより夫と酒場の歌姫フロレンシア・ポルテアとの関係に不満を持っていた。ニコラオはフロレンシアと不倫関係にあったという。ニコラオはアバと口論になった末、彼女を殺害。このとき彼は既にアバが死んでいると確信した可能性があるが、本人は「ただ倒れただけだと思って外出し、二日後に帰ってきたら死んでいた」と供述している。


 いずれにせよ死んでいる事実を突きつけられたニコラオは、フロレンシアと逃げようと画策。しかし事実を告げられたフロレンシアは恐怖に駆られ通報しようとし、彼は「通報を阻止するために」フロレンシアをも手にかけてしまう。こうして一気に二人の女性を手にかけたあと、死体の処理に困ったニコラオはまずアバの死体をバラバラにして袋に詰めると、自宅の床下に埋めて隠した。

 この時点で彼の倫理観は完全に崩壊。あるいは精神的にも崩壊していた。このとき彼は「フロレンシアの魂の声を聞いた」と語っており、彼女は歌姫として自分の役に立つことを望んでいると信じ込んだ。そのためフロレンシアの死体をバラバラにしたあと、骨を取り出して砕き、作りかけのマラカスの中に封じ込めた。フロレンシアの骨で作ったマラカスの音は「天上の声そのものだった」と語っている。


 その後ニコラオの作るマラカスからは美しい歌声のようだと評判になったと語っている。これは自称であり、実際のところどうだったかは言及されていないが、その後都市伝説的に流布されている。加えて、フロレンシアの骨の入ったマラカスはなんらかのルートで本当に販売されており、バラバラになってしまったのは事実のようだ。

 現実においては、ニコラオは自分の言動や周囲の証言により、事件から一ヶ月後には殺人容疑で逮捕されている。警察が捜査を開始してからもマラカスを作り続けており、警察が踏み込んだときには骨の残りがテーブルの上で綺麗に並べられた状態だったという。

 ニコラオは終身刑を言い渡されたが、既にマラカスは半分以上ばらまかれ、フロレンシアの遺体(骨)はすべて回収できなくなったとされている。


 なお、2019年にミシガン州にて「ニコラオ・セディージョが殺した女の骨を使ったマラカス」がオークションで出品されたという噂があるが、だれが買い取ったかなどは公表されていない。

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