第25話 あなたの死に顔サイト

 90年代、インターネットを利用できるのはまだ一部の人間だけだった。

 そのため当時は個人サイトが主体になっていたものの、人目を憚られるような趣味のサイトであっても、検索ワードやリンクをたどっていく過程でたどり着いてしまうことがあった。中でもR18、特にBLや特殊性癖を取り上げたサイトを運営していた管理者は、隠しリンクを置いたり、パスワード制を採用したりなど、自ら自衛や規制の形をとる方法が広まっていった。


 しかしそんな中でも公開状態であった危なげな個人サイトのひとつに、「あなたの死に顔」というサイトがあった。

 濃い深緑の背景に白い字で書かれたシンプルなサイトで、コンテンツには「あなたの死に顔が見られるおまじない・都市伝説」といったオカルト的なものと、どこからか引っ張ってきた死体写真が掲載されていた。死体写真はほとんどが海外のもので、なんらかの皮膚病や、事件・事故で顔の一部が変形したりしたようなグロテスクなものが中心だった。そんなコンテンツのなかで異彩を放っていたのが、サイト名と同じ「あなたの死に顔」だった。


 この「あなたの死に顔」というコンテンツは、自分の写真を投稿すると死に顔が見られるというもの。ルールはシンプルで、自分の写真しか受け付けないというものだった。

 当時はまだ携帯電話も一般的ではなく、写真やアナログ画像をインターネット上に投稿するには素人にはかなり手間がかかった。また、当時は個人情報や顔写真をネットに晒すのは危険という風潮があった。それでも興味を惹かれた人々はいた。

 サイトには連絡先や掲示板などは無く、管理人と連絡を取ることはほぼ不可能。そのため一部の大型掲示板では、顔写真を送ることで連絡を取ろうとする動きがあった。

 そんななか、掲示板のスレ住人のなかで自分の顔写真を投稿する猛者が現れる。宣言して一時間ほどして動きがあり、入力したメールあてに写真が送られてきたという。それは確かに自分の顔で、どこか虚ろな表情で、少し血にまみれていたらしい。


 いまのようなAI技術が広まっていない時代であったため、おそらくは手書きで加工されているものと考えられたが、「写真に加工したにしてはうまい」という評価がされていた。とはいえ掲載されている死体画像のようにグロテスクな加工をされていると思い込んでいたスレ住人は少し肩透かしを食らったという。

 ただ、その後も何人かが写真を送った結果、「本人でない写真だと何故か弾かれる」「加工の方法は人それぞれで、老けた写真が返ってきたこともある」ということが判明した。


 このサイトも時代の流れとともに忘れ去られたが、8年ほどしてとあるスレッドが立った。かつてのスレ住人で「あなたの死に顔」に投稿したらしき人物の兄と名乗った。事故死した弟のパソコンを整理し出てきた写真が、事故直後の弟の顔とそっくりだと言うのだ。いったいこれはどこで撮られた写真なのかと探っていたところ、件のサイトとスレッドの存在にたどり着いたという。

 これが事実かどうかはわからず、いわゆる釣りの可能性もあったものの、スレはほどなくして落ちてしまった。


 また、現在ではプロバイダーによってサイトは削除されており、見ることはできない。

 しかしどこかのサイトで「あなたの死に顔サイト」は生きているという噂もあるが、いまだたどり着けた者はいないという。

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