第24話 折平村村民消失事件の新聞

 折平村村民消失事件とは「現代の、あるいは陸のメアリー・セレスト号事件とも呼ばれた事件」であると同時に、その記事が掲載された新聞のこと。

 内容としてはメアリー・セレスト号と比較されるだけあり、ある村から突然村民がたった今いなくなったかのように消失するという、都市伝説としてはよくある類。

 だがこの件で特異なのは事件の内容ではなく、当時のとある新聞に取り上げられた経緯による。


 まず「折平村村民消失事件」は1974年9月、当時発行されていたとある新聞で取り上げられた。

 内容は以下の通り。

 1974年9月某日、某県の折平村に郵便物を届けに来た郵便職員が、村からだれもいなくなったいることに気付く。駐在所に飛び込んだが、駐在所にも食べかけの丼ものと茶があるだけでだれもいなかった。その後の調査で村の住人全員がいなくなっており、まるでたったいまいなくなったかのように洗濯物や食事などが残されていた。村で唯一の小学校は当時、大人と子供含めて三十人ほどの人間がいたが、教室ではいましがた授業が始まるようなままだれもいなくなっていた。


 都市伝説としてはありがちながら、現実の新聞に書かれたというあまりのセンセーショナルな記事に「折平村」を取材しようと様々なメディアが訪れようとした。だがそれほど時を経ずして、「折平村」は実在こそするものの、そのような事件は起きていないことが判明する。

 なぜこのような偽記事が出たのか、なぜ新聞社は偽記事を掲載したのか、報道は新聞社への批難へと次第に変わっていく。

 だが当の新聞社ではそれ以上に騒動になっていた。

 だれが記事を書き、だれがゴーサインを出し、そもそもだれが紙面を整えて印刷に回したのか、なにひとつわからなかったのである。記事であれば誰かが書いて提出しているはずが、だれも心当たりがなかった。なんらかの悪戯か、新聞社に対する悪質な嫌がらせではないかとして警察に届け出たが、それにも関わらず数日後に再び「折平村」の記事が続報という形で掲載され配られてしまう事態が発生。当時はネットもまだ無く、折平村での出来事を本当だと信じている人々も存在した。

 新聞社は犯人捜しに躍起になるあまり、当の折平村からの抗議の電話すら無視するような状態で、事情を知った一般市民からは反感を買ってしまう。

 そのため新聞社の発行部数は瞬く間に減少し、翌年には新聞社は閉鎖した。


 また、現実の折平村もこの事件のせいで取材陣が殺到したほか、好奇心に駆られた若者が大勢来てしまったために平穏を乱される事態に発展。もともと人口は減少傾向にあったものの、若い人々は醜聞を嫌って土地を離れるなどしたため、十数年もした頃には記事のとおりになっていた。もともと統合の話があがっていた小学校はあっという間に話が進み、子供のいる家庭から統合先の隣の市に引っ越しなどが行われたのである。そのため学校には教科書などがそのまま残されることになった。また、土地を離れられない老人なども一人暮らしの突然死などで食事の準備を残したまま死亡していた例があったため、不可解にも記事の通りになったと噂された。

 しかし、だれが、なんのためにそのような記事を紛れ込ませたのか、そもそもなぜその新聞社だったのかさえ、現在でもわかっていない。

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