第28話 バーバラの木

 「バーバラの木」は、広島県のとある公園に存在する樹木および、その地域に投函される怪文書。


 広島県のある地域には、三十年ほど前からポストに怪文書が投函されることがある。怪文書は新聞チラシほどの大きさで、びっしりと書かれた文章と、下の方には木のような絵が描かれている。どちらも手書きと思われるが、チラシそのものは印刷されたもの。内容はいつも同じで、不定期に投函されている。


 文章には癖があるものの、文字そのものは比較的読みやすい。

 チラシの主張によると、公園にある「バーバラの木」を切り倒すことに賛成しろという内容。その理由として、「あの木は数多くの人間の血を啜っている。あの木に捕まればただではすまない」とされている。他にも意味不明な文章が続いているが、ほとんどがバーバラの木を嫌悪している内容が所狭しと綴られている。

 また、このチラシでいちばん肝心なものは下の方に描かれた木である。

 バーバラの木を描いたものに見えるが、普通に描いたような絵ではなく、まるでそれが万歳をした人の形のように見えるのである。


 ところで肝心のバーバラの木は、樹齢二百年ほどの木で、地域にある公園の片隅に生えているひときわ大きな樹のこと。公園ができる前からそこにあったらしく、平成初期まではよく木登りをして遊んでいた子供もいたらしい。現在はそうした遊びは危険として禁止されているため、表向きには登ることはできない。それでもいまなお地域の人々に「バーバラの木」として愛され、親しまれているごく一般的な樹木である。

 インタビューに答えてくれた小学生の子供たちも、「禁止されてるみたいだけど、よく登ってますよ」と語り、「それに公園の木なので切り倒すもなにも無いと思いますね」と続けた。


 近所の人々はこの怪文書に関しても「悪戯」と割り切っており、警察もあまり相手にはしていないようだ。

 実際に大人たちへのインタビューでも、同様の意見が多かった。インタビューに答えてくれた近所の主婦は、「まあ悪戯でしょう。こんな事を言われてもね」と笑い、バーバラの木にぴったりと縋り付いたまま答えてくれた。

 インタビュー中にも関わらず、バーバラの木には多くの地域住民が集っていた。彼らのだれもがバーバラの木にしがみついたまま笑顔を浮かべており、これがこの地域の日常となっている。

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