第18話

 20時5分、天童家の固定電話に着信がある。


「もしもしッ!!」

 1コール目で綺羅が夏目を押し退けるようにして電話に出る。


「天童綺羅だな。金は確かに受け取った。約束通り娘は開放する。今すぐ上野公園に来い」

 通話はそこで切れた。


 それを受けて、警察は上野公園付近を捜索。警官の一人が美術館前のベンチに突如として大きなスーツケースが出現するのを発見し、中を開けてみると天童花が衰弱した姿で見つかった。


 花の証言によると、誘拐犯の男とは一切面識はなかった。年齢は五十代から七十代(八歳の子供に大人の年齢を推測することは難しい)。

 男は道を尋ねるふりをして花に近づき、車で連れ去った。その後はスーツケースの中に拘束された状態で入れられ、犯人と一緒だった。


 天童真理雄の死亡という犠牲と引き換えに、人質は無事救出。犯人は取り逃がし、身代金の五千万円もビル屋上からばら撒かれてしまった。


 警察としては辛酸しんさんを嘗めさせられた形だったが、事件は一応の決着を見せた。


 ――――かに思われた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る