第11話

 天童花は薬で眠らされた状態で、スーツケースの中に閉じ込められていた。

 途中で起きても暴れられないよう手足は縛られ、口には猿ぐつわを付けられている。


 下校途中、花は黒い乗用車に乗った男から道を尋ねられた。


「そこのお嬢ちゃん、道を訊きたいんだが、駅に行くにはどっちに向かえばいいのかな?」


 父親よりもずっと年上の小柄な老人だった。この時点で花は男に対して一切警戒心を抱いていなかった。


「……えーと」


 駅への行き方ならわかる。だが、それを言葉で説明することは花にとってとても難しいことだった。


「一緒に地図を見てくれないかな?」


 男にそう言われ、花は車に近づいて行く。扉が開き、花が地図を覗き込もうとした瞬間、男は物凄い力で花を車内に引きずり込んだ。


 男は暴れる花を押さえつけながら、腕に注射針を刺した。


「…………!?」


 痺れるような感覚の後、花はすぐに意識を失ってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る