第4話

 気が付くと、俺は一人で稽古場の部屋の中央に立っていた。

 時間が強制的に巻き戻されたような奇妙な感覚だった。


 だがそれは違う。壁時計を見ると針はきちんと進んでいる。巻き戻されたのは俺という存在だけだ。

 ならば全ては夢だったということで解決できるのではないか?


 否、それも無理だ。俺はあのとき確かに死んだ。弾丸が喉を貫通して、灼熱のように熱い血飛沫を撒き散らした感触をはっきりと覚えている。


 ――俺は確かに死んだ。

 ――それは絶対だ。


 ならば寿限無の話を全面的に信じるしかない。俺は一度死亡した後、死ぬ十五分前の状態で蘇ったのだ。


 俺は誰もいない部屋の中で一人笑っていた。どうしても笑いを堪えることができなかった。

 断っておくが、別に気がふれたわけではない。

 あくまで俺の頭は冷静だった。


 今考えなくてはならないのは、何故俺は殺されたのか? そしてこの後どう行動するべきか? である。


 俺が殺された理由は、やはり俺がこの能力の存在を知ってしまったからだろう。悪用しようと思えばどんなことにでも使えそうな能力だ。何かのきっかけで俺が天童家の血を引いていることを知れば、必ずこの能力を使うと考えたのだろう。そして俺から能力を奪うことにした。


 この後俺がとるべき行動については熟考の余地がありそうだった。だが、ことを急ぐのは得策ではないだろう。寿限無は少なからず俺を警戒している。ロープのすり替えの罪を認めたばかりなのだから、それは仕方がない。俺から能力を奪ったことが何よりの証拠だろう。


 ならば、ここは根競べだ。


 寿限無の失敗は、俺に照久の復活を見せてしまったこと。そして天童家先祖伝来の能力を俺に説明してしまったことだ。


 俺は天童家から離れ、一先ず身を隠すことにした。

 マジックにも桃にも未練はなかった。そして俺はそれから一度も桃にも照久にも寿限無にも会うことはなかった。


 ――半年後。

 風の便りで照久と桃が結婚して子を成したことを知った。

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