第2話

 ――あり得ない。

 ――あんなことは絶対にあり得ない。


 公演を終えてからも、俺の頭の中は照久の出現のことでいっぱいだった。照久は溺れていて完全に意識を失っていた。あの状態からすぐに復活できたとは思えない。


 否、それよりも問題なのは出現の方法だ。

 照久は何もない空間から突如として現れた。

 少なくとも、俺の目にはそうとしか見えなかった。あんな斬新で大胆なマジックを照久が考え付くとは思えない。寿限無にだって無理だろう。


 否、違う。あれがマジックなら桃の動揺の説明が付かない。あれは演技などではなく、間違いなく本当の恐怖だった。


 しかし、だったらあの現象は何なのか? まさか俺を脅かせる為だけに、桃にも事情を話さず照久と寿限無が共謀した?


 ――そうか、寿限無。

 考えてみればあのときの寿限無の態度は異様だった。実の息子が生死の境を彷徨っているというのに、妙に落ち着き払っていた。そればかりか俺が救急車を呼ぼうとするのを止めさえした。


 つまり、寿限無は照久が無事であることを知っていたのだ。

 やはり、何か仕掛けがあったに違いない。

 たとえば照久は溺れたふりをしていただけで、俺にドッキリを仕掛けていた?


 駄目だ。

 もしそうだとしても、出現の方法がわからない。

 今回の公演で、照久の唐突な出現は間違いなく最も観客を沸かせた演目だった。悔しいがそれが事実だ。


 ――知りたい。

 ――俺はあの出現マジックのトリックを何としても知りたかった。

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